人は誰しも、生きている限り、死と言うものからは逃げられない。
そして大切な人が出来たとき、失うかもしれないという不安と恐怖からも逃げられない。

僕は知ってしまった。

だからもう、誰も失いたくないんだ。





captive





が・・・!?」


僕がその知らせを聞いたのは、比較的簡単な任務を終えた次の日だった。
一瞬、地面がどっちなのかを忘れた。視界が揺らぐ。


「今、医務室で手当てを受けてるわ。心配しないで、命に別状は・・・ってアレン君?!」


リナリーが一気に顔色の悪くなった僕を心配して、優しい声と笑顔をくれたけれど、それを最後まで聞かず走り出していた。
一瞬、マナの姿が脳裏をよぎる。
ぎりっと唇をかみ締めた。

もう、失いたくはないんだ。





***





!!」


走ってきたスピードのまま勢いよく医務室のドアを開ける。
大きな音に、含め全員の視線が僕に集まった。
でも、そんなことは気にしていられない。
僕の視線の先には、痛々しい包帯姿のがいたから。


「・・・アレン?」


驚いた顔のまま近づく僕を凝視する彼女。
僕はそれに何も答えず、彼女の前で止まると、存在を確かめるようにそっと彼女の頬に触れた。
きょとんとした顔のまま、小さく首を傾げる彼女。
その頬から伝わるぬくもりは、確かに彼女のもので。


「・・・どうしたの?」


そう小さく聞いてくる声も、間違いなく彼女のもので。
そこまで確認してようやく、僕は知らず知らずに入っていた全身の力を抜いた。
無意識に安堵のため息が漏れる。


「・・・よかったです。・・・無事で。」


そう言ってぎこちないながらも笑みを浮かべれば、彼女も申し訳なさそうな照れたような笑みを浮かべながら


「ありがとう。心配かけてごめんね?」


と言う。
僕はそれにゆるゆると首を振って応え、今度は心からの安堵の笑みを浮かべた。





***





手当てが終わって、2人での部屋に移動した。
疲れたようにベッドに座り、ため息をついた彼女に、また僕は不安に駆られる。
医師は命に別状はないといった。
信じていないわけじゃない。でも絶対だと言い切れるだろうか。

失いたくない。もう誰も、失いたくないんだ。


「・・・アレン?」


彼女の驚いたような声が耳元で響く。
僕は、気づいたら彼女をそっと抱きしめていた。
本当なら、思いっきり抱きしめてしまいたいのをぐっとこらえて。
傷には響かないように、いつもよりそっと。いつもより緩やかに。
肩口に額を押し付けて、祈るように目を閉じる。
暖かい。触れた部分から、ぬくもりと、確かな鼓動が伝わってくる。
彼女はここにいる。今、ここに、生きて。
そう、実感しているのに。
鼻につく消毒液のにおいが、ぬくもりを感じているはずの僕に安心感を与えない。


「・・・怪我、大丈夫?」

「ん?・・・平気平気!死んでないから大丈夫。」


そう言って笑う彼女の笑顔も、僕に安心感を与えない。
彼女もエクソシストとして最前線で戦うから、怪我なんて日常茶飯事で。
死と隣り合わせだから、死を意識しているのは当然だけれど。
「死ぬよりはまし」そう言って笑える彼女が、僕に安心感を与えない。
そんなことを言わないで欲しい。そんな言葉じゃ、僕は安らぐことなんて出来ない。

もし彼女がエクソシストじゃなかったら、僕はこんなに不安に駆られなくてもすんだだろうか。
心地よいはずの彼女の近くで、こんなに胸を締め付けられるような切なさを感じなくてすんだだろうか。





そうかもしれない。でもそうじゃないかもしれない。





いくら振り払ってもまとわりついてくる不安の影。

生きている限り、死と言う終わりからは逃げられない。
分かっている。分かっているのに。
失いたくないと、手放したくないと、心の奥が叫ぶ。
知ってしまったから。大切な人を失う悲しみを。
知ってしまったから。やりきれない苦しみと、どうしようもない絶望を。

だからもう大切な人は作らないと、決めていたのに。
出会ってしまったんだ、君と。
もう大切な人は作らないと、決めていたのに―――


そんな埒もあかないことをぐるぐると考えていたら、突然背中に触れるものがあった。
はっとして顔を少し上げると、それを押さえつける誰かの手。
言うまでもない、の手だ。
僕が大人しくまた顔を肩に預けると、彼女はゆっくりと髪をなでた。
もう片方の手は、優しく背中を叩いている。
まるで母親が子供にするよう。
いつもなら、やめてくださいよ。と文句を言ってしまいそうな仕草。
それでも、なぜか今の僕にはそれが心地よく思えて。
なぜか、泣きたくなるくらい安心できて。
ゆっくりと目を閉じた僕の耳に、彼女の慈しむような声が静かにささやく。


「・・・大丈夫だよ、アレン。頑張るから、私。」





大丈夫。頑張るから。
あなたを悲しませないように。
あなたを苦しませないように。
あなたをおいて逝かないように。
頑張るから。

だから。










“どうかお願い。傍にいさせて”










は包み込むようにただひたすら抱きしめていた。
アレンはただ祈るように、目を閉じこみ上げる何かを押しとどめた。

出会ってしまった。
愛してしまった。
失いたくないと、手離したくないと、願ってしまった。

もう二度と、喪いたくないんだ。
あんな思いは、二度とごめんだ。

そのために、何が出来るだろう。
彼女の存在を確かめながら、いつたどり着くか分からない問いかけをした。

ねぇ?君を守るために、失わないために、僕は何が出来るだろう―――










***
すいません、よく分からなくなりました。
お馬鹿さんなのに無謀なことに挑戦した私を許してください。

それにしても、“Please〜”とシチュエーション被ってるよね・・・
偶然ですよ?偶然。
あ、じゃあ“Please〜”のアレンver.ってことで・・・だ、ダメ?(苦しい)

・・・では。(逃走)


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