『オレや他のエクソシストにとって、人間は伯爵の味方に見えちまうんだなぁ』


その言葉が、頭にこびりついて離れない―――





differs from you





・・・は。」

「ん?」


ぽつりと呟かれた言葉に、私は首をかしげながら振り返る。
そこには、気まずそうに視線をさまよわせながらこちらを伺うアレンの姿があった。


「なに?アレン。」

「あの、ちょっと変なこと聞くんですけど。」

「いいよ、なに?」


も・・・人間が伯爵の仲間に見えるんですか?」


意を決したように顔を上げて、その真剣なまなざしとともにぶつけられた問い。
私は予想外の質問に目を見開いた。





風がひときわ強く吹き、一瞬お互いの視線をさえぎった。





クリアになった視界に映ったの姿に、アレンは無意識に息を呑んだ。
さっきの驚いた顔とは打って変わった、哀しくて苦しい微笑。
そんな顔をさせてしまったのが忍びなくて、やっぱりいいですと言おうとした自分をさえぎり、彼女は微笑を苦笑に変えた。


「うん・・・そうだね。見える。だって、アクマって人と変わらないんだもん。」


過去を思い出すように、は遠く空を見上げた。


「それでエクソシストになったばっかりは、街中で結構後ろ取られたりしてさ。そのせいで怪我したこともあったかな。
とにかく・・・人がみんな自分の敵に見えて、怖くてたまらないときがあった。」


エクソシストの証を胸に着けて歩くことは、それすなわち自分を的にすることだった。
そうすれば、こちらから出向かなくても向こうからきてくれる。
アクマを退治する役目を持つ私たちにとっては、ある意味効率的で画期的なものだった。
でも


「すれ違う人を際限なく疑って、無意識にイノセンスを握り締めて。
怖かった。怖くて怖くてたまらなかった。正直、何度もコートを脱ぎ捨てようと思った。」


今でも忘れられない。
親切に手を差し伸べてくれた人が、自分に敵意を向けた瞬間を。
向けられた笑顔が、一瞬にして異形に転じたあの瞬間を。
あのとき感じた、絶望を。


そのとき思った。
このコートがあるから襲われる。
このコートがなければ、きっと襲われない。
このコートさえ脱いでしまえば、その親切は偽りではないでしょう?
私に向けてくる笑顔は、騙すための仮面ではないでしょう?

もう、疑いたくはなかった。疑い続けることに疲れてしまった。


「実際、脱いでた時期があったのよ。そうすれば、またいつものように街中を歩けるかもって。
・・・でもね、結局は変わらなかった。」


迷い込んだ路地裏。
団服を着ていないのにもかからわず、襲われたあの瞬間。
そのとき気づいた。


「そのとき気づいたんだ。あぁなんだ。変わらないじゃないかって。」


アクマは人を襲うから、人間である限り襲われる。
そしてエクソシストとか普通の人とか、そんなことはまったく関係なくて。
ただ違うのは、対象が無力な人間かエクソシストか。抵抗出来るか否か。


ただ、それだけ。
結局は、変わらない。
偽りの笑顔も、つかの間の親切も。


「それなら、自分が襲われたほうがいいじゃないかと思ったの。」


自分なら襲われても対抗できる力があるから。
それなら、自分が襲われたほうがいい。
そういえば私がこのコートを身にまとった理由はなんだったのか。


人を、この世界を守るためじゃなかった?


そしてまた、私はその胸に的を掲げることを選んだ―――





「でもね、そう思っても、やっぱりいつ襲われるかもしれない恐怖と、いつ裏切られるかもしれないという猜疑心は残ってて・・・。」


そんなとき貴方に会った。
あなたは人間とアクマの区別のつく目を持っていた。
くったくなく人と接する貴方を見て、裏のない綺麗な笑顔を見せられて。


「ごめんね・・・羨ましいと思ってしまった。」


それが呪いだと聞かされても、私には綺麗でいられるプレゼントのように思えてしまった。
あぁ、きっと彼はこんな思いは一生知らずに、安穏と街中を歩けるんだなと思うと、憎らしくさえ思えてしまった。
この恐怖を知らない貴方に苛立ちを覚えた。


「ごめんね、ごめんなさい。」


それが、彼にとってどれほど重いものなのかを考えもしないで。
哀しいアクマを見続けるあなたは、どんなに心を痛ませただろう。
いつもある笑顔の裏に、どれだけの悲しみを抱えていただろう。
見えているからこそ生まれる痛みに、私は気づこうともしなかった。
ただ、その罪の証を便利な道具としか考えてなくて。
自分の浅はかさに、どうしようもないくらいの怒りを覚えた。





ごめんね、と繰り返しながら肩を震わせる彼女。
それを半ば呆然と眺めながら、いつもの彼女と、目の前の彼女を重ね合わせる。
彼女はいつだって笑顔で、明るく、優しくて、そしてとても・・・強くて。
そんな彼女がまさか、こんな辛い思いをしているとは思ってなかった。
こんな葛藤を胸に抱きながら自分に笑いかけることは、どれほど彼女にとって辛かっただろう。
どうして、気づけなかったんだろう。
自分の気遣いの足りなさに、ほとほと嫌気がさした。


・・・すみませんでした・・・。」





ややあって紡がれた言葉に、は驚いて顔を上げた。
そこには、申し訳なさそうに眉を下げている彼の姿。


「どうして謝るの?あなたは何も悪くないのに。」

「僕が、君にそんな顔をさせてしまったから。」


だから、すみませんと彼は言う。
気にしなくてもいいのに、彼は、何度も何度も繰り返す。


「すとっぷ。」


だからさえぎるために私は人差し指をそっと彼の唇に触れさせた。
はっとしてこちらを見るアレンに、私は今出来る最高の笑顔を贈る。


「謝らないで。悪いのは私だから。」

「いえ、僕のほうこそ。」

「私だってば。」

「僕ですって。」

「私。」

「僕です。」


両者1歩も譲らず同じことを言い合っていたら、だんだん笑いがこみ上げてきた。
それは相手も同じだったようで。
気づいたら2人でくすくすと笑いあっていた。
お互い様だね。そうだね。と笑いあって、また空を見上げる。
幾分か和らいだ風が、寄り添った2人の頬をなでていった。


「あ、そうだ、じゃあ。」

「ん?」

「今度2人で町に行きましょう。」

「・・・へ?」

「僕がいればアクマかどうかすぐに分かります。だから、今度町に出かけるときは僕と一緒に行きましょう?」


そうすれば、人を疑わなくてすむでしょう?


そう言ってにっこり微笑むアレンが、すごく眩しくて。
あぁ、もし彼も私と同じようにアクマの区別がつかなくても
彼だけはきっと私のようにはならないのだろうと、思った。










***
んでこれを物陰からラビが見てて「なにやってんさ、あいつら」とかなんとか言って呆れてるんだぜきっと。とか言ってみる(言ってろ)。

4巻を読んで思いついたやつ。
ってかほぼ全て4巻そのままなやつ(ヒロインに置き換えただけじゃんってね/痛い)。
そのまま過ぎるかなーどうかなーと思ってずっと封印し続けてたやつ。
実は、これが私のDグレ夢第1作目に当たります。


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