あなたはいつだって「大丈夫」と言う。
大丈夫なわけはないのに、ホントは辛いはずなのに。
それでも笑って、大丈夫と言う。
ねぇ、気づいてる?
その言葉が、その笑顔が、私をいつも押し止めていることを。
感情のせめぎあいの中で、今日も私は、どうすることもできず立ち尽くしたまま。
ねぇアレン?あなたには、そんな私が見えてますか?
Please look at me
アレンが帰ってきた。
その情報は、すぐに私の耳へとはいってきた。
嫌な情報と、ともに。
「っアレン!?」
慌てて言われた場所へ行けば、話どおり、傷だらけの彼の姿。
そう、ここは医務室。
怪我をした人たちが、運ばれてくる場所だ。
「あ、。」
包帯を巻く医務員の手元を見ていた彼は、私がドアを開けたとたん、こちらを見て破顔する。
頬にも痛々しい大きなガーゼ。
痛くないわけはないのに。
向けられた笑顔に苦渋の表情を返し、私はつかつかと彼の腰掛けるベッドに近寄った。
もはや暗黙の了解になっているのか、すっと場所を空けてくれた医務員にありがとうと頭を下げて、巻きかけの包帯を受け取る。
そのまま、無言で傷の手当てを始めた。
もう慣れてしまった。包帯の巻き方も、もはやプロ級だ。
哀しいことに。
そんな私を彼が見て、「スミマセン」と謝るのももはや日常。
ちらりと顔をうかがえば、どことなく照れくさそうな、でも申し訳なさそうな様子で苦笑しているのも、もはや当たり前。
それは、もはや決まりきった一連の流れで。
あまりにもいつもすぎて、哀しい。
もうそれは儀式のように定着してしまったもので、臆病な私は崩せない。
そのままてきぱきと手当てを終えた私たちは、医療班の人にお礼を言って部屋を出た。
***
アレンの部屋に行くまでの道のりは、手をつないで歩く。
これもいつしか決まりごとのように行っているもので。
決まりきった動作なのはイヤだけど、手をつなぐことはイヤじゃないから。
結局、理由は曖昧なまま今日までずるずるきてしまった。
ほんと、私たちの間には決まりきった動作ばかり。
以前と変わらないものばかり。
それはつまり、世間的には恋人と呼ばれるようになって少し経ってもまだ、距離はまったく縮まってないことを意味するわけで。
昔はこれでもよかった。
それより前は、もっと離れた存在だったから。
別に恋人だから。と言いたいんじゃない。
ただ、私が傍にいたいだけ。
ただ、あなたに近づきたいだけなの。
ねぇ、どうすれば、この甘い戯曲のような毎日から抜け出せますか?
もう私には、いまのままじゃ苦しいだけなのに。
***
どさっとベッドに座り込む彼を横目に、私は彼のコートをハンガーにかける。
疲れたように天井を見上げる彼に向けて、小さく「痛い?」と聞いてみた。
答えは分かってる。
案の定、彼はこっちを見て笑顔で、「大丈夫ですよ」と言った。
あぁ、これもいつもどおり。
これで私は、怪我についての心配が出来なくなる。
ねぇ、気づいてる?
その言葉は、その笑顔は、私を立ち入らせないバリケードだということに。
「それじゃあ・・・こっちは?」
そういいながら私は彼の心臓の辺り、“心”のあたりを指差す。
言われた彼は、大きく目を見開いて、私の顔と指差す場所を交互に見つめた。
これは一種の賭け。
泣きたくなるほど、分の悪い。
でも、どうか届いて。どうか応えて。
私に、あなたを支えさせてください。
苦しいほどの沈黙の後、彼は泣きそうなのを必死にこらえたような痛々しい笑みを浮かべ、言った。
「大丈夫です・・・よ。」
やっぱり・・・ね。
私はとっさに笑いたいのか、泣きたいのか、分からなかった。
口から出掛かった言葉を無理やりに喉に押し込んで、小さく「そっか。」と呟いた。
あぁ、やっぱり私は、あなたの作る壁の向こうへは入れない。
どうして立ち入らせてはくれないのですか?
好きな人には無理をして欲しくないと
どうか私を頼って欲しいと
願うことすら、罪なのですか?
そう言ってしまえば、もっと私は楽になったのかもしれない。
どうして、と、ありったけの疑問と不満の詰まった言葉を投げつければ、この気分も晴れたかもしれない。
それでも、そう言えなかったのは、もうこの笑顔を見たくないから。
そして私自身の弱さゆえ。
拒絶を振り切って踏み込むことが出来ない、私の弱さゆえ。
嫌われたくない。
離れたくない。
でも、踏み出さなければこの距離は縮まらない。
結局は、身動きが取れなくて、私はただそこに立ち尽くす。
踏み出すことも、背を向けることも出来ないまま、ただ苦しむあなたを見ているだけ。
ねぇアレン。あなたに私は見えてますか?
壁を必死で叩いている私に、どうか気づいてください。
***
暗いです・・・こんなの朝から書いてたなんて、朝に対する冒涜ですかね?(朝=爽やか)
*某日メッセで語り合ってくださった羽架様に、元ネタ提供のお礼として差し上げます
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