ー!!」

「ん?」


後ろからかかった声に、私は足を止めて振り返った。
駆けてくるのは、ファインダーの友人。満面の笑みを浮かべている。


「・・・。」


今思えば、一瞬よぎった嫌な予感を素直に信じ、聞かなかったことにすればよかったと、心底思う。

後悔先に立たずとは、よく言ったものである。





sneak a shot 〜アレンver.〜





「ナニ・・・これ。」

「ナニって・・・写真。」


駆け寄ってきた友人から笑顔で手渡された写真は見間違うはずもない、私の彼氏という立場の人の写真。
しかも、この角度は・・・


「・・・隠し撮り?」

「ぴんぽーん♪」


よく撮れてるでしょ?と笑顔で言ってくる友人に返す笑みが自然と引きつる。


「な、なんでこんなものが・・・」

「あら、エクソシストの写真って結構高く売れるのよ〜。だってほら、結構美形が多いじゃない?」

「・・・はぁ。」


うきうきとして言う彼女に半ばぽかんとしながら相槌を打つ。
まぁ、言われてみれば結構美形ぞろいかも・・・しれない。


(でも気配に敏感なエクソシストが気づかないってことあるのかしら・・・?)


黙認されているのか、そこは流石にファインダーなのか。
ぐるぐると考えをめぐらしていると、


「その写真はあんたにあげるわ。大切にしてねん♪」

「へ!?あ、ちょっと・・・!」


すたたたた〜っと去っていってしまった友人を引き止める声はすでに遅く、彼女は廊下の向こうへと消えて行った。あ、相変わらず行動が素早い・・・。


「ど、どうしよう、これ・・・。」


困惑して手元に残った品々を眺めた。
大好きな人の写真。
撮ったのが自分以外というところはちょっと複雑ながら、彼の写真を持っていなかった私としては嬉しかったりする。
けど・・・


(こんなの持ってるなんて知れたら・・・!)


恥ずかしい。恥ずかしくてもう顔が見られない。きっと。
赤面しているのに内心血の気がひいていると言う何とも矛盾に満ちた複雑な心境になり、なんとしても隠し持とうと心に決めた。
そうと決めたら早めに部屋に戻らないと。
そう思い踵を返したとき、





「あれ、。こんなところでどうしたんですか?」


ぎっくぅ!と思わず両肩が跳ね、身体がぴきっと硬直する。
今、一番会いたくない人物の声が聞こえたような・・・


「ア、アレン・・・!」


内心ではダッシュで逃げ出してしまいたいのだが、そういうわけにもいかない。
ひきつる頬を必死に制御し、とりあえず笑みを浮かべ、振り返る。
もちろん、写真は背中に隠して。


「アレンこそ、どうしてこんなとこに?」


部屋はあっちでしょ。とアレンの背後を指差す。
が、必死の私を不審に思ったのか、アレンは不思議そうにこちらを見つめている。
じぃっと凝視されると、いつもとは別の意味でドキドキしてくる。アレンは変なところで目ざといのだ。


、何か隠してません?」

「へ?な、なんで?」


一瞬声が裏返ってしまったが、取り繕うようにうふふと笑ってみせる。
自分でも苦しいとは思っているが、そうするより他に思いつかなかった。
案の定ますます不信げに目の前の彼の眉間に皺がよる。あぁ、せっかくの綺麗な顔が。
私を観察していた彼の目が、ふと後ろに回された手に留まった。


「・・・なに持ってるんですか?」

「へ!?な、何も?」

「みせてください。」


私の反応で原因がそこにあると判断したらしいアレンがずいっと手を出しながらこちらに歩み寄ってくる。
ヤバイ。。ピーンチ!


「ほ、ほらぁ、何も持ってないって!」


と片手を彼にかざし、ひらひらと振ってみる。
が、がしっとその手を取られてしまった。そのままぐいっと引き寄せられる。
うわっとバランスが崩れたことに気をとられた隙に、もう片方の手から写真が抜き取られる感触がした。
取られた・・・!一瞬にして青ざめる。


「ちょ、返して!」

「・・・写真・・・?」

「わー!わー!見ないでー返してーーーー!!!」


と言っても時すでに遅し。私が伸ばす腕を器用にひょいひょいと避けながらアレンが訝しげにそれを見ている。
ようやく取り返したときには、私の息は叫びすぎて上がりきり、アレンはといえば困惑した様子で私が慌てて隠す写真を見ていた。


「それ・・・」

「・・・・・・・・・・・・。」


気まずい雰囲気に冷や汗があとからあとから流れてくる。


「僕の写真・・・ですよね。いつの間に・・・?」


あ、気づいてなかったんだ。と大変な状況にもかかわらず思う。
どうやらなかなか優秀なファインダーが首謀者のようだ。
とはいえ、ばれてしまった今、その努力は儚くも無駄となってしまったのだが。


「えーと、これは・・・」

「説明・・・してくれますよね?」


何とかしていい言い訳を考えようと頭を巡らせたが、思いつく前に先手を打たれてしまった。
にっこりと微笑む姿は、可愛いのだが・・・
(ブ、ブラック降臨・・・!)
良くも悪くも付き合いが深いため、裏の意味がよく分かってしまう。
綺麗な微笑みも、私にとっては何よりも強制力を伴う最強の微笑みだ。


「・・・ハイ・・・。」


首肯する以外、手はなかった。
内心で友人やその仲間に謝罪しつつ、事の次第を説明したのだった。





***





「へぇ、隠し撮り・・・ですか。」

「そうデス。」

「で、それがここにあるってことは、・・・。」

「か、買ってないよ!?もらったんだってば!」

「別に買っちゃ駄目なんて言ってませんけど。むしろ、買ってくれても別にいいです。」

「は、はい・・・?」


まさか許可が出るとは思ってなかったため、ぽかんとしながら続きを待つ。
だって、とアレンは綺麗に微笑んだ。


「それだけが僕のこと好きだってことでしょう?」

「え・・あ・・・いや・・・」

「違いますか?」

「う゛・・・!」


綺麗に微笑んだまま覗き込まれ、顔が真っ赤になっていくのが分かる。
惹き込まれてしまうような妖艶な笑み。こういうとき本当に15歳なのかと疑ってしまう。


?どうしました?」

「え!?あ、な、なんでもない。その、ちょっと・・・き、気味悪くないのかなぁって。」

「気味悪い?」


見惚れてしまって一瞬反応が遅れた。それを隠すように慌てて取り繕うように言うと、アレンはきょとんとして首を傾げる。


「え、だって、自分の知らない誰かが自分の写真持ってるなんて、なんか気味悪くない?」

「うーん・・・それは別に・・・あ、でも。」


特にそうは思っていないのか、あごに手を添えて考え込んでいる。
それを見守っていると、ふっと顔をあげた。それから、またあの曲者な綺麗な笑みを浮かべる。


「とりあえず、モデル料はもらわないと。」

「は?」

「師匠の借金、また増えたらしいんで。」


お金儲けなら、自分も一枚かませてもらわないと。

予想外の言葉に、二の句が告げない。
ぽかんと彼を凝視していると、彼は笑顔で言った。


「とりあえず、そのお友達・・・紹介してください。」





***





「じゃ、商談は成立ということで。」

「は、はひ・・・。」


にこにことご満悦なアレンとは裏腹に、生気すら吸い取られましたという感じの友人。
あれから仕方なしに連れて行くと、驚く友人を尻目にアレンは生き生きと交渉を開始し、非常に有利な契約を結んでしまったのだった。その手腕たるや、天晴れの一言。
アレンのブラックな一面を見たことのなかった友人には荷が重すぎたらしい。息も絶え絶え、瀕死寸前だ。


「あ、そうだ。スミマセンが、カメラを貸してもらえますか?」

「へ?は、はひ、どうぞお持ちくださいませ・・・。」

「ありがとうございます。」


始終ニコニコしているアレンに可愛さより恐怖を感じるようになってしまったらしい。
仕事道具ともいえるカメラをあっさりとアレンに託してしまった。アレンはにこやかにお礼をいい、私の手を取って部屋を出た。


「これで少しは師匠の借金を返せますね♪」

「よ、よかったね・・・。」


廃人寸前になっていた友人の部屋を振り返りつつ、心の中で合掌しておく。


「でもそれ、何に使うの?」

「あぁ、これですか?」


借りてきたカメラを指してそう言うと、アレンはひょいとそれを構える。
そしてふっとこちらに焦点をあわせたかと思うと、かしゃりとシャッターを押した。


「あ、あ゛ーーーーー!!」

「ふふふ〜、1枚ゲット。」

「な、なにしてんの!?」


今絶対変な顔だった!!と叫ぶ私に、彼はニコニコと笑って一言。


「だって、が僕の写真を持ってるのに僕はの写真を持ってないなんて・・・不公平ですよね?」

「・・・・・・・・・。」

「というわけで、はい、チーズ。」


かしゃ。

「まだまだ撮りますよー」と言うアレンに私は目の前が暗くなるのを感じたのだった。










***
こっそり2周年企画小説第1弾です。
特別なページを作るのがぶっちゃけめんどいのでこっそりです(…)
うちのサイトに最近出没しがちな黒アレン様・・・なぜかノリノリで書けました(笑)楽しんでいただけたら本望です。
これからも水野ともどもaglaiaをよろしくお願いします。


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