あなたと出会って、自分の弱さを痛感した。
そして、強くなりたいと願った。
あなたと出会って、私はいろんな自分を見つけてる。
弱い自分を支えるのは、約束ともいえない些細な言葉遊び。
watchword
もう普通の人なら寝静まっている深夜。
私はといえば、科学班のお手伝いに奔走していた。
あっちからこっちへ、こっちからあっちへ、せかせかと大量の書類を運ぶ。
科学班の人に比べたら楽だけれど、意外に体力を使うから疲れる。そして忙しい。
でも私にはちょうどよかった。
忙しいから何も考えなくてすむ。疲れるから考えにふける前に眠れる。
アレンが任務でいない日は、いつだってそうだ。
心配で心配で、何も手につかない。
もしかしたらとよくない想像までしてしまう。
だから、何も考えないように科学班に入り浸って、わき目も振らずに働いて。
それでも心の澱を忘れることなんて出来なくて。
「まだ・・・かなぁ。」
今日もまた、窓から空を見上げてため息をついた。
あと何日、こんな毎日を繰り返すのか。
「会い・・・たいなぁ・・・。」
小さな本音は誰にも届かず空気に溶けた。
星の綺麗な夜だった。
***
コムイさんに呼び止められたのは、それから数日後だった。
「? 頼んだ書類全部終わったんですか?」
「いや、それはまだこれから・・・大丈夫だよ?ちゃんとやってるって。」
じとっとした目で見つめると、コムイさんはとたんに焦ったように視線をさまよわせる。
それにくすりと笑って、私は「それで、何の用ですか?」と先を促した。
コムイさんはあからさまに話題が変わったことに安堵して、あぁそうそうと言って笑う。
「アレン君から電話だよ。」
***
バッタンと大きな音を立てて、私は科学班の皆がいる部屋へ駆け込んだ。
「もうダメだ〜」とかいつも聞こえているうめき声がピタリと止み、どこかに積み上げてあった書類が崩れるバサバサっという音もした。
が、そんなことにはかまってられなかった。
だって、待たせてしまっているから。
わき目も振らずコムイさんの机に直行し、受話器をひっつかんだ。
「っもしもし!?」
「うわっ、!?」
走ってきたままの勢いで電話に出たら、向こうから驚いたような声が聞こえた。
懐かしさと愛しさにとらわれる前に、慌てて謝る。
「うわわ、ごめん!驚かせちゃって・・・!」
「いえそんな、こっちこそ突然電話しちゃって・・・。」
電話に出たときの慌しさが薄れると、私たちはなんだかおかしくなってきてくすくすと笑いあった。
「久しぶり、アレン。」
「・・・はい。お久しぶりです。」
何となく、電話の向こうでアレンがふわりと微笑んだのが気配で分かる。
私は大切に受話器を両手で持ち、目を閉じた。
久しぶりに聞いた彼の声は、いつもと変わらず優しくて、嬉しさや懐かしさ、愛しさがこみ上げて胸を満たした。
「・・・元気?」
「はい。」
「怪我してない?」
「・・・はい。」
「あ、今の間。怪我してるでしょう?」
「・・・・・・ちょっとだけ・・・。」
訂正された言葉に私は呆れたように息をつく。
まったく、相変わらずだ。
アレンは自分を犠牲にすることを厭わない。傷つくことに無頓着だ。
おそらく、意識したこともないのだろう。彼にとってはそれが、当たり前だから。
だからとても不安になる。いつだってその純粋さが怖い。
いつか彼の純粋すぎる優しさが、彼自身を壊さないかと。
いつか、私から彼を奪いやしないか・・・と。
「・・・?」
「無茶・・・しないでよ・・・。」
ふいに不安で押しつぶされそうになった。
いつか電話の向こうの彼がいなくなってしまいそうな
もう、2度と声すら聞けなくなるような、そんな予感がした。
そんなことはない大丈夫と自分に言い聞かせても、完全に否定できない不安が残る。
会いたい。
無性に会いたくなった。
顔を間近で見たい。ぬくもりに触れたい。
こんな機械越しじゃない、声が聞きたい。
「会いたい・・・よぉ・・・っ!」
あぁ、困らせてしまうな。そう思っても、口に出さずにはいられなかった。
今まで会えなかった日にちを数えた分、会いたいと願う心は膨らんで。
不安は変わらずつきまとって。
早くその無事を、その存在を、この目で、手で、耳で確かめたくて。
受話器を持った手が震え、そして手の甲にぽつりと雫が落ちた。
最近の私は涙もろいと思う。
以前の私は、こんなに頻繁に泣かなかった。泣くなんて私の一大イベント的な存在で。
愛しさが増すたび、私はどんどん弱くなる。
「・・・。」
耳元で小さなアレンの声が聞こえた。
きっと困った顔をしている。どうしていいか分からなくて、絶対に困惑している。
ごめんなさい。私は弱くなるばかりで、強くなれない。
強くなると、約束したのに。
あなたの無事を信じて待ち続ける強さが、欲しい。
涙を止める、強さが欲しい。
心配しないでと笑って言える、強さが。
「僕も・・・。」
「・・・?」
「僕も、会いたい・・・です。」
だから、絶対に帰ります。
そう言って電話の向こうのアレンが笑ったのが分かった。
私は思わず口元を押さえてその場に立ち尽くした。
あんなに止めようとしても止められなかった涙が、嘘のようにピタリと止まった。
それが驚きなのかなんなのか、よく分からなかったけれど。
そのまま、私は泣いたせいでおかしくなった喉から必死に声を絞り出した。
「・・・絶対?」
「はい。」
「絶対って言ったら絶対だからね。あとで無理でしたなんて、許さないから。」
わけが分からないなと自分でも思いつつそう言うと、向こう側のアレンがくすくすと笑ったのが分かった。
そして笑い声に混じって「分かってますよ」という声が聞こえた。
「との約束は守ります。・・・絶対に。」
「絶対に?」
「はい。」
まるで言葉遊びのように繰り返す言葉に、私たちはくすくすと笑いあった。
笑えば笑うほど、言葉を交わせば交わすほど、心が温かくなっていく。
なぜか今なら、弱い私でもすべての事が簡単に出来るような気がしてきた。
「じゃあ、私も帰りを待ってる。・・・絶対に。」
「・・・はい。」
驚くほどするっと出た、言葉。自然に浮かべられた笑顔。
それに、アレンが少しだけ照れたように返事をしてくれた。
それだけで私は、待っていられる。
これからも不安に思わず待ち続けられるかと聞かれたら、多分私はノーと返すだろう。
それでも、“絶対”の言葉と共に交わした約束は、私を支えるものとなる。
少しだけ強くなる、足がかりになる。
あぁ、いつでも私を変えるのは、いい意味でも悪い意味でもアレンだ。
「ありがとね。」
「え、何がです?」
「んーん!なんでも!じゃあね、待ってます!」
何となく恥ずかしくなって、私は早々に電話を切ってしまった。
多分この切れた電話の向こうではアレンが受話器を見つめて首をかしげているだろう。
それを想像して小さく笑って、私はひとつ深呼吸をした。
「さて、今日も頑張りますか。」
そう気合を入れて、先ほど崩れた紙の山の整理にかかったのだった。
***
あぁ、途中から書きたいことが分からなくなりました(反省)
これをDeepForestのたまさんに相互お礼として差し上げます・・・!(恐る恐る)
こんなのですが一応頑張ったので貰ってやってくださると嬉しい・・・あぁでも返品可ですのでーー!!
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