「うわ、すごい星空だな。」
オレは読み終わった本をその辺に放り出して、バルコニーへと繋がる窓を開けた。
今俺たちはちょっとしたきっかけで、とある裕福な家に泊まらせてもらってる。
いつも軍のホテルだったり野宿だったりだから、たまにはこんな贅沢なところもいいかもしれない。
がすごく喜んでいたのを思い出して、ふっと知らずに笑みがこぼれた。
改めて満天の星空を見上げる。
今はもう真夜中で、どこも生活の明かりは見えない。
だからだろうか。こんなに沢山の星が見れるのは。
(が見たら喜ぶだろうなぁ)
そんなことを思いながら、隣の部屋を見た。
そこは胸中の人であるにあてがわれた部屋で、もう当然だが部屋の明かりは消えていた。
それを少し残念に思う。きっとこの星空を見たら、は感嘆の声をあげて、とても綺麗に笑っただろうに。
そこまで考えて、さっきからのことしか考えていないことに気づいた。
何を考えているんだか。今更になって顔が火照ってくる。
(・・・寝よ)
ぐるぐる回る思考回路を遮断すべく、寝ようと踵を返したとき、自分の部屋から思わぬ声が聞こえた。
「・・・エド?」
「・・・・・・!?」
一瞬目を疑った。何度か瞬きをして、目なんかをこすってみたりする。
それでも何をやっても、窓を少し開けてこちらを覗きこんでいるの姿は消えなかった。
「おまっ、何してんだよ!」
「エドこそ・・・そんなとこでなにやって・・・くしゅん。」
ぴうっと風が吹いて、それに一気に体温を奪われたのか、が小さくくしゃみをした。
よく見ると薄着のままだ。それなのに、こちらに近づいてこようと部屋から出てくる。
オレは慌てて自分が羽織っていたコートを脱ぎつつに駆け寄った。
包み込むように羽織らせてやれば、は驚いたようにこちらを見る。
「え・・・い、いいよ、エド!エドが風邪引いちゃう!」
「ばーか。そこまでやわじゃねーよ。お前のほうがこのままだと風邪引くぞ。」
「でも、どう見たってエドだって寒そうだもの。いいってば!」
「オレは寒くないからいいの。」
「でもっ!」
「でもじゃない。いいんだよ、羽織っとけ。お前が寒そうにしてるとこっちまで寒くなる。」
「・・・。」
そう言ってちょっと微笑めば、は顔を赤くして黙り込んでしまった。
しばらくもごもごと何かしら言葉にならない言葉を呟いていたが、やがて諦めたように「ありがとう」といって微笑んだ。
俯きがちで、顔を赤くして。
そんなふうに微笑まれて、オレは不覚にも少しだけ鼓動が早くなった。
これはそれだけ俺がこいつに参っているという証拠なのだが、認めるのが何となく恥ずかしいから無視しておく。
「ねぇ、エド。こんな夜更けにこんなところで、何をしてたの?」
小さめの声で、が静かに尋ねてきた。
振り返れば、心配そうに顔を歪ませたの姿。
は心配症だと思う。いつだってちょっとのことでおろおろしたり、泣きそうになったり。
・・・まぁ、原因は十中八九俺なんだけど。
は知ってるんだ。俺が時々あのときの夢を見て飛び起きることを。
時々どうしようもないほどの焦燥感に駆られて寝付けないことを。
知っているからこそ、こんな時間まで電気のついていることを心配して、こうして来てくれたのだろう。
本当に、は心配症だと思う。そして、どこまでも優しいと思う。
それがくすぐったくもあり、申し訳なくもあり、そしてすごく嬉しい。
「ん?あぁ、見てみろよ。すげー星が綺麗なんだ。」
「え?・・・うわぁ・・・ほんとだぁ。」
安心させるように明るく笑って夜空を指せば、はその星空を見、感嘆の声をあげた。
とたんにぱぁっと明るくなったの表情を見て、オレはそっと安堵の息をつく。
心配をかけてしまっているのは自分のせいだ。でも、には明るく笑っていて欲しい。
そう思うのは、我侭だろうか。
さっき想像したとおり、無邪気に笑って夜空を一心に眺めているを見つつ、そう思った。
我侭でもエゴでも、には明るく笑っていて欲しい。
「綺麗だね、エド!」
「あぁ・・・そろそろ中入るか。」
はしゃぐ傍ら、の体が小刻みに震え出していることを発見して、オレはそう提案した。
とたんに残念そうな顔をする彼女を促して、部屋へと押し込む。
「せっかく綺麗なのに・・・。」
「そんなの部屋の中からでも見れるだろ。」
「そうだけど、でも気分的に違うの!こう・・・自然と一体になれてるって言うか、とにかくそんな・・・。」
「はいはい。」
分かった分かったといいながら、しっかりと窓の鍵を閉めた。
窓が鏡のように室内を映していて、そこには不満げに眉を顰めているの姿も見える。
さっきまでは笑顔で、その前は心配そうな顔をしていたのに。本当に、よく表情が変わるやつだ。
「さーて、もう遅いから寝るぞー。」
くれぐれもベランダに出るなよ。と釘を刺して、オレはを部屋に返した。
不満げに文句を言いながら帰っていったが、果たしてきちんと守るのやら。
本当は見張りと言う口実で一緒の部屋で寝ると言う選択肢も浮かんだのだが、それはちょっとした事情で却下だ。
耐える自信ははっきりいってない。
「さーて、寝よ寝よ。」
またぐるぐると回り始めた思考回路を断絶すべく、オレは早々に寝ることにした。
寝付けるかどうかは、また別として。
あぁ、いろいろ辛いなぁ・・・。
***
コートをかける仕草と、内心葛藤中のエドワードさんが書きたかっただけですすんまそん。
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