「あ・・・もうこんな時間か・・・。」

私は暗くなった窓の外を見て、手を止めた。
ベッドにもたれるようにして床に腰掛ける私の膝には、編みかけのマフラー(になる予定のもの)と、毛糸の玉。
暇だし、せっかくだからと久々に編み出したら止まらなくなって、いつの間にやら1日中編み続けていた。

うーんと伸びをして、ゆっくりと立ち上がる。
というか、体が固まってしまっていて、ゆっくりとじゃないと立ち上がれなかったって言うのが本音だ。
時間をかけて体を伸ばしてようやくほぐれたところで、気合を入れるために「よし!」と言った。
そろそろあの兄弟が疲れた顔をしながら帰ってくるころだ。
まずは兄弟の部屋に行って部屋を暖めて、それから・・・
そう今後の計画を考えながら窓の外を見ると、木が揺さぶられるほどの強風だということに気づく。
これは兄の方のために温かい飲み物が必要だろうか。
寒いとわめきながら帰ってくるだろう2人のことを思いつつ、私は廊下へ出て行ったのだった。





***





「さみーー!!」


そう叫びながら入ってきたのは、想像通りエドとアルだった。
兄のほうは両手で自分を抱きかかえるようにしながらカタカタ震えている。
余程寒かったらしい。冬生まれなのに、寒いのは苦手なのだろうか。


「お帰りなさい。2人とも、お疲れ様。」

「ただいま、。」

「お〜・・・。」


笑顔で言った私の言葉に、アルは笑顔で、エドはカタカタしながら応える。
ふむ、約1名はそれどころじゃないらしい。


「はい、エド。寒かったでしょ?ココア作っといたよ。」

「マジ!?さんきゅ〜!」


はい、とマグカップを渡してやれば、嬉しそうに飲み始める。時々「あったけー」と言いながら。
必死に寒さを和らげようとしている兄の横では、アルが借りてきたらしい沢山の本を机の上に置いている。
雪崩が起きれば本で机が埋まるであろう程の沢山の本に、私は目が点になってしまった。


「た、沢山借りてきたね・・・。」

「兄さんが借りるって聞かなくてさ・・・。」


もしかしてもしかしなくてもこれを全部読む気だろうか。明日もどうせ図書館に行くのに?
呆然としながら呟けば、帰ってくるため息交じりの声。


「全く、が心配なら心配で早く帰ればよかったのに強がっちゃってさ・・・。」

「え?」

「うるさいぞ、そこ!」


ココアの温かさにとろけていたエドがその瞬間眉を吊り上げてこちらをビシィ!っと指差す。
顔が赤いのは寒かったせいか、はたまた別のせいか。


「心配?・・・エドが?」

「そう。向こうにいる間もそわそわしちゃって・・・」


呆れたように言うアルの向こうでは、エドが気まずそうに目を逸らして、あちこちを無駄に見ている。明らかに目が泳いでいた。
それが図星だと証明しているようなもので。笑いを堪えながら、私はエドに近づいていった。


「エド・・・心配してくれたの?」

「・・・そんなんじゃねーよ。」


顔を覗き込みながらそう尋ねると、誤魔化しきれないくらい顔が赤くなったエドがふいっと顔を逸らす。
その仕草がなんとも可愛くて、いかん、にやけてしまう・・・。


「何笑ってんだ!!」


怒られるから顔を引き締めなくちゃと思った矢先に怒鳴られてしまった。
でも今回は照れてるゆえの怒鳴り声だから、悪いがちっとも怖くない。


「べーつにー?」


どうせばれてしまったんだしと開き直って、私は笑みを隠そうともせずくすくすと笑った。
それでますますエドの機嫌を損ねてしまったけど、もう仕方ないじゃない?赤くなってるエドが可愛くてしょうがないんだもの。


「それで、もう体のほうは大丈夫なの?」


それまで私たちの会話を見守っていたアルが、そう尋ねてくる。
そう、実は私ちょっと風邪をひいてしまっていたのだ。とは言っても、まだ引きはじめといったところで、そう大した症状は出ていないのだけれど。


「うん、もう大丈夫。」


いつもより沢山寝て、暖かい部屋でのんびりと過ごしていたら、いつの間にやら不快感はなくなっていた。
そう言って笑えば、2人の口から明らかに安堵の息が漏れる。
どうやら、想像以上に2人に心配をかけていたらしい。


「そっか・・・よかった・・・。」

「心配かけてごめんね。」


口に出して安堵を伝える弟とは裏腹に、兄のほうはまたふいっと顔を逸らしてしまった。
まったく、意地っ張りと言うかなんというか。
それなら。と私はそっぽを向いたエドの正面へ素早く回り込んだ。
しっかりと視線を捉えてにっこりと笑った後、思い切り抱きつく。
耳元で「うわっ」という驚いた声と、その後に混乱したように私の名前を呼ぶ声がする。
まったくもう、初々しいなぁエドってば。
そう心の中で笑いながら、私はことさら明るい声を出していった。


「心配かけさせちゃってごめんね。でも心配してくれて嬉しかった。」


そこまで一気に言うと、私はぱっとエドから離れた。
ことの展開についていけずぽかんとしたエドを見つめながら、私は最大級の笑みを浮かべた。





「大好き!」





その後しばらくは、アルの野次とそれに耳まで真っ赤にしたエドが必死に反論する姿が延々と見られましたとさ。










***
ちょっぴり風邪ネタ。でもなんかよく分からない展開になりました。


拍手お礼夢 〜3/25


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