今日は爽やかな朝・・・なんだろうな。
・・・・・・・・・・・寒いけど。
冬の朝
「う〜〜〜〜・・・・寒い!!」
は布団の中でもぞもぞと動いた。
寒い。とっても寒い。
冬だから当たり前だといわれればそれまでだが、それでも寒いもんは寒い。
「さ〜む〜い〜〜〜〜・・・。」
私は布団をかき集めながら唸った。
唸ったってどうしようもないのは分かっているが、なんとなく唸りたくてしょうがないのだ。
「起きなきゃ・・・だよねぇ・・・。」
と言いつつも、体はしっかり首まで布団の中。
冬の起床は、決死の覚悟が必要なのだ。
「あぁ・・・このまま布団の中で過ごしたい。それか、ベッドごと移動を・・・。」
物理的に無茶なことを真剣な顔でぶつぶつ呟いてる姿は異様だ。
はっきり言って怖い。
「全く、なんで冬なんてもんがあるのよ。」
年がら年中春でいいじゃない。いや、でも秋も捨てがたいか・・・。
だんだん論点がずれてきている気がする。
時間は刻々と過ぎてゆく・・・
***
こんこん
「ん?」
私は突如叩かれたドアを首だけをひねって見た。
ドアに背中を向けて丸まっていたせいで、かなり無理な体制になる。
「誰?」
「俺。」
「私、俺って言う知り合いなんていない。」
相手は誰なのか声でしっかり分かったが、あえてそう返事をする。
案の定ドアの向こうの人物は怒った。
床をダンッと踏む音がする。
「エ・ド・ワ・ー・ド・だ!!」
わざわざ言葉を切って叫んでくれた相手に、は布団の中で笑いをかみ殺した。
予想通り。なんて分かりやすい。
「はいはい。んで?何の用?」
「朝飯、食わねぇの?」
必死で笑いをかみ殺して尋ねると、憮然とした声が返ってきた。
どうやらからかわれたと分かっているらしい。
それならのらなきゃいいのに・・・とは思うが、あえて言わない。
楽しみが減るのはちょっと惜しい。
「朝ごはん?あぁ・・・もうそんな時間か。」
「もうって・・・とっくに朝日昇ってるぞ。」
その声にかすかに呆れの声が混じる。
その声に引かれて窓を見ると、暖かそうなお日様の光がカーテンの隙間からこぼれていた。
「あら〜・・・。」
と大して驚いてもいない口調で返すと、ドアの向こうからため息が聞こえた。
これみよがしな。
「・・・入るぞ。」
と言うや否やこちらの了解も取らず勝手にドアが開いた。
とりあえずちょっとは遠慮したのか、顔だけひょこっと覗かせる。
目が合ったとたん、エドワードは呆れたような、脱力したような、げっそりしたような、なんともいえない顔をした。
「お前な・・・。」
「・・・なによ。」
「いい加減起きろよ。」
「いやよ。寒い。」
呆れたような声に、今度はこちらが憮然とした表情と声で返す。
エドワードは、またこれ見よがしにため息をついて、ドアを押し開けて部屋に入ってきた。
「・・・・・・・・レディの部屋に許可なく入るとはいい度胸ね。」
「お褒めの言葉どーも。」
褒めてない!と心の中で怒鳴り返す。
エドワードは飄々とした動作でベッドサイドまでやってきた。
彼の体で光が遮断されて視界が薄暗くなる。
逆光になって表情がよく見えないが、なんとなくいや〜な予感がする。
思わず身構える。
「・・・・・・・・・・・・・・何?」
「いや?何も?」
このやろう、楽しんでやがる。
私は心中で毒づいた。
私を見下ろしているのがよほど楽しいのだろう。いつも私に見下ろされてるから。
声から、こいつがニヤついているのだと推測する。多分、間違ってない。
なんだかものすごく、悔しい。
とはいえ、まだ布団が恋しいので起きるわけにもいかず、せめてもの抵抗できっと睨む。
「・・・・・・・・言いたいことがあるならはっきり言いなさい。」
「んじゃあ遠慮なく。・・・早く起きろ。」
「い・や。」
「折角の朝飯が冷めちまうだろ。」
「じゃあエド、持ってきて。」
「・・・・・・・・・・・・は?」
私の言葉に、エドワードが素っ頓狂な声を上げる。
私は名案とばかりに満面の笑みを浮かべた。
「そうよ、そうすればいいんだわ。さぁ、エド。持ってきてちょうだい!」
「・・・・・・・・ずいぶんといいご身分じゃねぇか。」
「私ですから。」
笑顔できっぱりと言い放った私に、エドワードの頬がひきつる。
もちろん、怒りから。
「〜〜〜〜っ!起きろおおぉぉ!!」
「うわっ?!ちょ、ちょっと止めてよ!」
突然叫んだかと思えば、布団を引っぺがしにかかったエドワードに、私は慌てて抵抗する。
冗談じゃない。折角のぬくぬくを逃してたまるか。
必死に顔を赤くして抵抗する私を見て、突然エドワードが手を離した。
突然のことに、私は勢い余って反対側から転げ落ちそうになるが、咄嗟に体をひねって転落は免れた。
ほう・・・と安堵のため息をついたのもつかの間、今度はきしりとベッドの軋む音がした。
ぎくりとして、恐る恐る後ろ、エドワードのいる方を見る。
そこには、ニヤニヤと笑うエドワードの姿があった。
頬に冷や汗が流れる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・な、何かな?」
「ほら、早く起きろよ。でないと・・・・」
「で、でないと?」
そう聞き返すと、エドワードは待ってましたとばかりに答えた。
「襲うぞ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」
私は思わず耳を疑った。
思考回路がフリーズする。
なにやらエドワード君の口から不穏な単語が飛び出したような気がするんですが?
「冗談?」
「まさか。」
私が少しの期待を込めて聞き返すと、にっこりとした笑顔でそう返された。
悪魔の笑みだ。
「とりあえず、落ち着いて話し合おうか。」
「必要なし。」
そう私の提案をばっさり切り捨てると、じりじりと近寄ってきた。
やつは本気だ。
そう本能が告げた。私は反対側に逃げようとするが、逃げ場がない。
さぁっと血の気が引く。
私がわたわたと逃げ道を探していると、気がつけばエドワードの顔が真上にあった。
ちらっと見ると、にっこりと笑われる。
つられて私もへらっと笑い返した。
にこにことお互い笑いあっていると、すっとやつの手が布団にかかった。
引っぺがそうと力を込める。
「わ〜〜〜!!待った待ったまったぁ!!」
「じゃあ起きるか?」
慌てて待ったをかけた私に、エドワードがそう返す。
私はぐっと言葉に詰まった。
襲われるのも嫌だが、ぬくい布団を手放すのも嫌だ。
究極の選択だ。私は思わず黙り込む。
唸り始めた私をエドワードはしばらく見守っていたが、痺れを切らしたのか、布団を握る手に力を込めた。
私は唸るのも忘れて慌てて抑える。
もう観念するしかなかった。
「分かった、起きる!起きるから!!」
「よし。」
やけくそで叫ぶと、エドワードはこっちが拍子抜けするくらいあっさりとひいた。
引き際のよさに私はあっけにとられる。
ベッドから降りたエドワードは、呆然と自分を見るの顔を見て、にやりと笑った。
「残念?」
「っ?!まさか!!」
意地悪そうに言われて、私は思わず顔を真っ赤にさせながら反論する。
そんな私を見て、エドワードはくつくつと笑った。
ものすごくむかつく。
きっと睨みつけてやるが、それをさらっと受け流して、さっさと部屋を出て行こうとした。
ドアノブに手をかけ、思い出したとばかりにこちらを振り向いた。
「さっさと起きろよ。でないと・・・。」
「な、何よ・・・。」
身を引きつつ聞き返す私に、やつは笑顔でとんでもないことをのたまった。
「今度は待ったなしな。」
「っ!とっとと出てけ!!」
大きく振りかぶって枕を投げつけると、それが届く前にするりと部屋から出て行った。
ターゲットを捕捉し損ねた枕が、閉まったドアに当たって落ちる。
「ちっくしょう、やられた。」
私は肩で息をしながらそう毒づいた。
「く〜や〜し〜い〜〜〜!!」
そう言いながら、枕のあった場所を両手で殴る。
「おのれ、豆め。」
いつか復讐してやる。とは心の中で誓った。
***
朝が寒かったから。と言う理由で書きました。
とにかく、冬の朝はお布団が恋しい。と主張したかっただけなのに・・・なんで襲われてるんですか、ヒロインさんは。
黒い、エドが黒い。にやつきながらヒロインを襲っております。成り行きって怖ひ。
では、読んでくださりありがとうございました。
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