あなたはいつだって、私の前を歩いていて
あなたはいつだって、勝気な笑顔を崩さなくて
あなたはまるで太陽のよう
あなたはまるで、月のよう
あなたはいつだって、弱い部分を見せてはくれない―――
眩しさにくらんだ先には
賢者の石の情報を得て、たどり着いた町。
必死で探して探して、やっと探し当てたのに、今回もやっぱり偽者だった。
いつものことだと分かっていても、期待した分だけ落胆の色は濃くなる。
エドが無意識だろうが深く重いため息をつく。
いつだって頑張っているのは彼で、いつだって一番落ち込むのも彼で。
「しょーがねーな。じゃ、次いくか。」
それなのに私たちに向けられるのは、一見元気そうな明るい笑顔。
無理をしているのは一目瞭然なのに、それを悟らせまいと、気丈に振舞うその姿に
私が泣きそうになっていることを、きっと彼は知らないのだろう。
***
翌朝、朝もやも晴れぬ頃に私たちは駅に向かうため、宿を出た。
石の情報が偽者だと分かった今、この町に長居する必要はない。
ほとんど人通りのない道を、私たちはただ無言で歩いた。
1歩先をエド、私の隣にアル。
これは、いつの間にか決まってしまったポジションだった。
いつだって私の前には、赤いコートを翻しながら歩く彼の後姿。
最初は、自分を守ってくれるこの小さいけど大きい背中が大好きで、
守られているようなそんな暖かさを感じられる場所で、私はとても嬉しかった。
けど
今は、この位置がとても哀しい
「・・・エド。」
「ん?どした?」
小さく呼べば不思議そうな顔で振り返ってくれる・・・のだろう。
顔を出し始めた太陽が逆光になって、彼の顔が上手く見えない。
「残念だったね。」
「・・・まーな。」
ねぎらいだかよく分からない言葉をかければ簡単な答えが返ってくる。
多分苦笑しているのだろう。
光にくらんだ目はまだ慣れなくて、彼の顔がよく見えない。
「・・・悲しい?」
そう問いかければ一瞬ぴたりと彼を取り巻く空気が固まった。
同時に歩みまで止まる。
私は次第に慣れてきた目を細めながら、じっと彼の反応を待った。
泣いてくれてもよかった
弱音を吐いてくれてもよかった
むしろ、私はそっちを望んでいた
でも
「・・・なーに言ってんだよ。ほら、行くぞ。」
実際に返ってきたのは呆れを含ませた、苦笑じみたいつもの笑顔。
太陽のように眩しい、いつもの笑顔。
この話は終わりと身を翻して歩き出されたら、もう表情をうかがうことすら出来ない。
いつからだろう。
私を守ってくれる背中が、遠く見えるようになったのは。
ねぇエド。
今あなたはどんな顔をして歩いてる?
あなたの後ろを歩くようになってから、私は眩しい笑顔しか見ていない。
太陽のように明るくて、太陽のように眩しくて、私は目がくらんできちんと見れない。
笑顔の奥に何を思っているのか、眩しさの向こうに何を思っているのか、うかがう事すら出来ない。
あなたはまるで太陽のような人
明るくて、暖かくて、強い。
そこにいるだけで、笑顔を見せるだけで、皆を元気付け、力強く導いてくれるから。
でも、月のような人
いつだって、私には涙を見せない。弱さを見せない。
常に地球に同じ面しか向けようとしない、あの月のよう。
いつだって、私には笑顔しか見せてくれないから。
エドの後ろを歩きながら、私はじっとある一点を見つめていた。
そこはエドの隣。
エドを遠く感じたあの日からの、私の理想のポジションとなった場所。
あそこならば、歩くエドの顔が見れるから。
あそこならば、彼の目指す場所が見れるから。
あそこならば、いざというとき彼を守れるから。
でも、太陽に近づきすぎた英雄が頭をちらついて、どうしてもあと1歩が踏み出せない。
あそこに行って迷惑に思われないだろうか。
あそこに行って、私に何が出来るだろう。
いつもそう考えるたび、何も出来ない自分に気づく。
いつだって私は守られてばかりで
いつだって元気付けられるのは私のほうで。
何かしたいと、彼のために何かしたいと願うのは、無謀なのだろうか。
「やってみなきゃわからないよ。」
「え・・・。」
ふいに隣から小さい声が聞こえた。
見ると、アルがこちらを向いている。
知らずに声に出していたのかと慌てて口を押さえ、ちらりと先を行く彼を見る。
だがどうやら気づかれていないようで、ほっと息をついた。
「やりたいようにやってみなよ。ならきっと大丈夫。」
「アル・・・。」
あぁ、かなわないなぁと思う。
いつだってアルは私の気持ちに気づいて、私の欲しい言葉をくれる。
ほんとに、この兄弟には勇気付けられてばっかりだ。
だからこそ、私は2人の力になりたいと思うのだ。
「ね。」と小首を傾げながら言うアルの言葉に後押しされるように、大きく1歩を踏み出した。
小走りにかけて、私が願っていたあの場所へ。
***
「エド!」
「ん?・・・うお!」
ひょこっと隣から顔を出した私に、エドは過剰なほど驚いてくれた。
それが何となくおかしくて、私は知らずに笑ってしまう。
笑われて居心地悪そうに目を逸らす彼を見ながら、私は極力さりげなく隣に並んでみた。
いつもより開けた視界
いつもより近くに感じる彼の存在
彼の足が少しだけ速まった。
私をいつものポジションに戻す気だろうか。そうはいかない。
私はおいて行かれないように、必死でエドの隣を動かなかった。
「ねぇ、エド。」
「んだよ。」
「無理だけはしないでね。」
私の言葉に、彼の歩みがぴたりと止まった。
驚きの表情で見てくる彼をまっすぐ見返しながら、ゆっくりと言い聞かせるように続ける。
「無理して笑わないで。無理して急ごうとしないで。無理して何もかもを隠さないで。」
「無理して・・・すべてを背負わないで・・・。」
あなたは太陽のような人
陽の光が眩しくて、暖かくて、忘れてしまいそうになるけれど。
あなたは月のような人
その裏側には、どれだけのものを隠しているの?
「残念さを分かち合うのも仲間でしょう?頑張ろうって励ましあうのも仲間でしょう?」
あなたは太陽のような人
でも、あなたが太陽なら、いったい誰があなたを照らすの
「荷物があるなら皆で持って、悲しいときは一緒に泣いて、楽しいときは一緒に笑って。」
あなたは月のような人
だから、光で照らされた部分以外にも、あなたはちゃんとあるはずでしょう
「仲間って、そういうものでしょう・・・?」
悲しいことを隠されたら、どうやって一緒に泣けばいいの
辛いことを隠されたら、どうやって励まし合い乗り越えればいいの
よく言うでしょう?
人は1人じゃ生きられない。人は支えあって生きているって。
「・・・・・・。」
「エドはお兄ちゃんだから、強くなくちゃって思うのかもしれないけど!でも私は・・・私たちは、何でも話して欲しい。頼って欲しい。
だって私たち・・・仲間でしょう?」
「・・・。」
視界が揺らめいたのを自覚して、見られまいと私は咄嗟に下を向いた。
そのまま、じっと彼の反応を待つ。
1秒が1分にも感じられた。
今まで思っていたことを勢いに任せて全部ぶちまけてしまったから。
これで拒絶されてしまったら・・・と思うと、どうしようもなく怖い。
じりじりと高まってくる不安と緊張に体が震えそうになったとき
「・・・・・・・・・そう、だな。」
それまでずっと黙っていたエドが、ぽつりと呟いた。
咄嗟に彼の顔を見上げると、月のように笑う彼の姿。
太陽のように明るいわけではない、眩しくもなく、だからといって暗くもない
真昼の月のような、どこか儚さを感じさせる苦笑
こんな表情、見たことがなかった。
思わず見入っていると、そんな私に苦笑を深めた彼がぽんと私の頭を叩いた。
叩かれた頭を押さえて見上げる私に、いつもの太陽のような笑顔を見せて
「さんきゅ、。」
昇りきった太陽に照らされたその笑顔は、目を細めてしまうほど眩しくて
言われた言葉が嬉しくて
私もようやく、心からの笑顔を浮かべた
あなたは太陽のような人
そして、月のような人
もしもあなたが月の一部分しか照らせないなら、
私は残りの部分を照らす、もうひとつの太陽になりたいと思った。
***
詰め込みすぎて何がなんだか分からないものになってしまいました・・・!
ものすごく遅れてしまいましたが、“ポロメリア”の羽架さんに1万ヒットお祝いとして贈ります。
エドは見た目とか笑顔とか、太陽のような人だと思います。でも、反面月のように一部分を隠しているのではないかと思います。
そしてそんな部分をヒロインが颯爽と救ってあげたかったのですが・・・なんか無理だった気がしてしょうがないです。
受け入れてもらえるか不安でしょうがないですが、もらってやってくださると嬉しいです。
それでは、今後ともよろしくお願いします!羽架さん大好き!愛してます・・・!
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