「ハッピィバースディ、さん」
両手に抱えて、それでも足りないほどの花を抱えてアレン君は私の前に現れた。
「知ってたの?」
両手いっぱいの花にも驚いていたのだけれども、それ以前に彼が自分の誕生日を知っているとは思わずに私は思わず動きを止めてしまった。
「はい。リナリーから聞いて」
『この花受け取って貰えますか?』と控えめに訊ねるアレン君に戸惑いながらもお礼をいい、その盛大な花束を受け取った。むせ返るような花の香りが鼻腔を擽る。こんな花束を持って、それを自然に渡せてしまうあたり彼は英国紳士なのだなと、変に納得してしまった。
「これでアレン君とまた年が離れちゃったね」
「そうですね」
「そう思うとなんだか悲しい」
アレンの正確な年齢がわからないとはいえ、私の方が彼よりも年上であることは分かっていた。それがいけないことでないことは分かっていても、どこか負い目に感じてしまう。だから誕生日が来ることが、恨めしかった。ほんの少しでもいいから、彼との年の差が開くのが嫌だった。
「そんな風に云わないで、さん」
「でも…」
「今日はさんが生まれた日です。だから、僕は嬉しいです」
素直に、真っ直ぐにそういい返されるとさすがに照れてしまう。トマトに負けないくらい顔が赤く染まってしまったのがアレン君にばれないように、私は貰った花束で顔を隠した。
「それに誕生日は年が増える事を祝う日じゃないと思います」
「え?」
「その人が生まれてきたことを祝う日です。だから今日は さんが生まれてきたことを祝う日。さんが生まれてきてくれて、そして僕に出会ってくれた。その感謝の気持ちも込めて、さんにおめでとうって僕は言いたいです」
だから。
アレン君は年相応なのか不相応なのかわからない、けれどとても魅力的な笑みを浮かべた。
「そんな風に考えるのはなしですよ?」
「……うん」
花束のインパクトよりも、花の香よりも、彼の言葉が強く残った。
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