運命的な出会いなんかじゃなかった。

ただ、毎日繰り返される生活の中にちょっとした変化があったって言う感じで。
そんな遠くの過去でもないのに、記憶があやふやでそれより前と後の明確な区切りがないから、きっとなんでもない変化だったんだろう。
その頃は。

まさか、その変化がこんなに大きな変化になるなんて、そのときは気づいてもいなかったんだ。





初恋





私はその日もいつものように図書館へ向かっていた。
いつからこれが日課になったかなんて覚えてない。
ただ今は学校が長期休暇で、宿題なんかもないし、家にいてもつまらないから。
それだけの理由だったのかもしれない。

元々本は好きだった。
活字を追っていることが苦手な人がいるけれど、私は全然そんなことはなくて。
知らない知識、知らない場所、知らない物語。それを知るのが好きだった。
その本の世界に引き込まれることが、好きだった。
そんな私にとって、本のたくさんある図書館は宝の山なのだ。


「え〜っと・・・どれにしようかな・・・」


しーんとした空気の中、かつかつという靴音と、人の息遣いだけが聞こえる。
静かなのはいいけどなんとなく寂しくなって、私はぽつりと独り言を呟いた。
昨日は魔法を使える少年の物語を読んだ。
その前は心理学の本を読んだ。
無節操にもほどがある。と自分でも思うが、その日の気分だったのだと言えばそれまでだ。
ただ、今日の気分はなんなのか、まだ掴めなかった。

図書館中を歩き回る私の目に、『錬金術』という文字が飛び込んできた。
私は足を止め、しばし考え込む。
錬金術には興味がある。使えたら便利だと思うし、きっと将来役に立つ。
でも、難しいと評判の学問だと言う理由で、今まで避けていた。
これを機会に、ちょっとかじってみるのもいいかもしれない。
そう思い立った私は、よし、と自分に気合を入れるとその区画へと足を踏み入れた。


「(うわ〜・・・分厚い・・・)」


本棚に置かれている本を見たとたん、やる気が急激に萎えていった。
どれもこれも難しいタイトル、下手すれば辞書並みの分厚さのものもある。
何となく、本たちから威圧感を感じて、私のやる気がたじろいだ。
ちょっと片手間に〜・・・と言う感じで読めるとは思えない。
(はっ、何本に負けてるのよ自分)
と私は自分に気合を入れなおす。
キッと本たちを睨みすえた。


「やってやろうじゃない・・・。」


私はそう低く呟くと、とりあえず初心者のための本を探しだした。





***





────それから2週間近くが経った
あの日からずっと錬金術と格闘していた私は、やっと基本を飲み込むことができた。
覚悟はしていたが、やっぱり難しい。
途中何度もくじけそうになったが、密かに負けず嫌いなところがある私は根性で頑張っていた。
あと、周囲の期待だ。
あの日、私が錬金術の本を持ち帰ったことで、家族は身近に錬金術師ができる!と喜んでいた。
「できるかどうか分からない。」と何度たしなめても、期待を全て消し去ることはできなかった。
別に期待が嬉しくないわけじゃない。自分がすることで他人が喜んでくれるなら、ちょっと頑張ってみようかなとも思う。
でも、ちょっと後戻りができなくなった状況に、息苦しさも感じていた。

今日も私は錬金術コーナーへ足を運んだ。
もうおなじみになったコースを淡々と歩く。
ふいっと曲がった瞬間に、私はそこに人影を発見した。


「(あれ・・・珍しい・・・)」


ここのコーナーに人がいるのは珍しかった。
時々おじさんなどは見かけたが、自分と同じ子供を見たのは初めてだ。
明るい金色の長い髪を後ろで三つ編みにし、赤いコートを着ている少年。
手に取った本に注がれる視線は怖いくらいに真剣で、音を立てるのがためらわれる。その瞳は、髪と同じく明るい金色だった。
思いもよらない先客に私は少しびっくりしたが、そのまま何事もなかったように本棚に視線を向けた。
自分と同じく錬金術を学んでいることに少しの親近感は覚えたが、所詮は他人だ。
それに少し人見知りの傾向もある私は、話しかけようなんて思いもしなかった。


それから、彼は毎日のようにそこに現れた。
私の日常に、少しの変化が起きた瞬間だった。










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***
ちょっとは恋愛ものを増やそうと言うことで(笑)
ショート連載って感じです。
ヒロインは連載の主人公とは全く関係ないです。
普通の、それこそ普通の女の子です。ちょっと本が好きなだけの。

このヒロインも気に入っていただけたら嬉しいです。

ってか、名前変換なくてすみませ・・・ごふっ(殴吐)