それから、毎日の日常に彼の存在が当たり前になっていた。
いつもの時間に行くと、必ず彼がいる。
私はそれを横目に自分の目的の本を選ぶ。
黙々と読む。
何日かがこの繰り返しだった。
会話もない。視線が合うこともない。
ただ、同じ空間を分け合ってお互いのことをやる。
縁としてはこれ以上ないほど薄いものだった。
***
「兄さん。」
「ん?どした?」
この数日間、彼・・・彼らと空間を共有するようになってから、驚きの連続だった。
まず、彼には弟がいた。
最初声だけ聞いたときは何の違和感もなかった。
ちょっと幼い声変わりする前の高い可愛い声。
そして、それに受け答えする少年の声も、まだ声変わり前だった。
しかし、弟君より若干低い。
やっぱり子供なんだなぁとしみじみと思いながらちらりと横目で見ると、その異様な光景に思わず本を取り落としそうになった。
2メートルはあるかというほどにでかい鎧。
(あ、あれが・・・弟?)
普通逆だろうと思った。何を食べればあんなにでかくなれるのか。
しかし、さっきの弟の声は間違いなく鎧のほうから発せられているし、兄である彼のほうも普通に受け答えしている。
声だけ聞いてたらなんの違和感もないのに。正直そう思った。
(ま、世の中いろいろだよね)
驚いたが、私はあっさりとその事実を認めると自分の本に集中した。
私はよく、変なところであっさりしてる、と言われる。
自分ではありのままを受け入れてるだけなのだが、普通は違うのだそうだ。
「自分の目で見ちゃったんだから、信じるしかないじゃないか。」
私がそういうと、「そういうわけにも行かないんだよ、普通は。」と返されてしまった。
でも「別に変わっていることが悪いわけじゃない。個性は大事にしろ。」と言われて育ったせいか、そんなに気にしたことはなかった。
だから、強烈な印象を残されたものの、別段気にするわけでもなかった。
所詮は、他人事だ。
***
とはいったものの、あれから何となくその風変わりな兄弟が気になっていた。
ガシャガシャと弟君の鎧が擦れる音が聞こえるたび、ぴくっと反応してしまう。
そして会話する2人を本を読む振りをしながら聞き耳を立てるのだ。
2人の会話は、いつも同じようなものだった。
「あった?」
「いや、そっちは?」
「こっちも駄目。」
そんな会話が毎日2,3回見られた。
兄弟で仲良く錬金術の研究をしているのだろうか。
さぞ、2人の親は喜んでるだろうなと思った。私の親のように本人を無視して勝手に盛り上がってるのかもしれないと思った。
あれから親は近所の人にふれ回っているらしい。
道ですれ違ったおばさんに「錬金術のお勉強、頑張ってね。」といわれ、びっくりした。
次第に膨れ上がっていく周囲の期待の目に、そろそろうんざりしていた。
それに、元々の性格のせいか、使命感のようなものまで生まれてきている。
やらなければ。周囲の期待に応えなければ。
そんな意識が、自分のどこかで必死に活字を追わせていた。
最初は、ただの暇つぶしだったのに。
彼らには、そういった視線はないのだろうか。
(・・・ま、関係ないか)
話もできない状態じゃ、何を憶測しても意味がない。
しかもそれを聞いたとして、なんになるって言うんだ。
そう思いなおして、私はまた難解な文章を理解するため、頭をフル回転し始めた。
でも・・・
話してみたいと思った、正直なところ。
でも、何を話せばいいのか分からなかった。
図書館内で「いいお天気ですね。」もないだろうし、見ず知らずの人にいきなり挨拶するのも相手をびっくりさせるだけだ。
本を読んでいるのを邪魔するのも気がひける。
何より、自分の勇気が足りない。
話しかける勇気が。
話しかける、きっかけが欲しい。
横目で見るだけじゃなくて、ちゃんと向き合って話してみたい。
それは単なる仲間意識なのかもしれないし、好奇心ゆえの思いかもしれない。はたまた、もっと別の何かだったのかもしれない。
よく分からなかった。自分の気持ちが。それがとてももどかしかった。
そして、そのきっかけは意外にもあっさりとやってきたのだった。
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***
進まない・・・名前変換がない・・・エドたちと喋りもしない。
こんなのドリ−ムなんていえない・・・言えないよ・・・っ!(泣き崩れる)
つ、次は喋ります。