その日も、いつものように本を読みに来た。
案の定、彼もそこにいた。
茶色い本棚に囲まれた金色の髪。赤いコート。
私の中では、もうこの風景が当たり前になっていた。
既に定位置になっている本棚の前で、私は本を立ち読みする。
普通は席についてゆっくり読むのだろうが、私は何となく席に行くまでの距離が惜しくてここで読んでいた。
毎日基礎の本ばかりを読み漁っていたせいか、内容が重複していることが多くなり、今はほとんどパラ読み状態なのだ。





***





しかし、昼を過ぎた頃、さすがに足が痛くなってきた。
僅かに顔を顰めつつ、足元を見、試しに片足を曲げてみると、ぎぎっとぎこちない動きをした。
完全に固まっている。
そう自覚したら、一気に足が疲れてきた。
座りたい。
ふぅ、とため息をつくと、どこか腰掛けられるところを探そうと辺りを見回した。
そのとき、ふと彼に目が留まった。
彼も自分と同じように本棚の前に立ったまま、無心に本を読んでいる。
私はそういえば・・・と今日の朝を思い浮かべた。
確か彼は自分より早くからここで読んでいた気がする。
疲れないのだろうか。

(これが男と女の違いってやつ?)
とあまり根拠のないことを考えながら、本来の目的のためもう一度辺りを見回した。
すると、思ったより近くに脚立が置いてあった。
ここの図書館は本棚が高い。
一番上の本を取ろうとしたら、子供はおろか大人も脚立を使わなければならないのだ。

(ラッキ〜♪)
私はそれを椅子代わりにすることに決めた。
早速脚立の2段目に腰掛ける。
身体の重みを支えなくてすむようになった足の裏がじーんとした。
楽になった・・・と私は満足げに息をつくと、また本に視線を落とした。





***





「なぁ。」

「・・・は?」


それからどれだけ経ったのか。
誰かに話しかけられたような気がして顔を上げると、私は目を見開いた。
そこには、彼がいた。
横から眺めているだけだった姿が、正面から見える。
弟君に話しかけている声が、自分に向かっている。
本に向けられている真摯な金色の瞳が、まっすぐ自分を見つめている。
ただ、そこには困惑の色があったけれど。
いきなりのことに、私は何も言い換えせず音を立てて固まった。
ぽかんと間抜けに彼のことを見返すことしか出来なかった。
そんな私を、彼は困ったように首を傾げて見ていた。


「なぁ、悪いんだけど、その脚立貸してくれるか?」

「・・・え?」

「だから、その脚立を・・・。」

「わー!ごめんなさい!どーぞどーぞ、お使い下さい!」


いきなりがばっと立ち上がってまくし立てる私を彼はきょとんとした目で見つめた。
それはとても幼い仕草で、普段の私なら可愛い!とか思っているんだろうけど、残念なことにそんな余裕はなかった。
ただひたすら、どうしようという文字がぐるぐる回っているだけで。
顔が赤くなるのを止められずに、それを隠そうと必死になって、結局挙動不審になっている私を、彼はぽかんと見つめていた。
(うあぁ〜見ないでくれ〜!!)
私は内心ここから走り去りたい衝動に駆られながら、せめてもの抵抗で脚立の後ろ側に回り込んだ。
とはいっても所詮脚立。完全に姿を隠すことなんて無理に等しくて・・・
消えたい・・・!と心の中で絶叫していると、ぷっと吹き出す音が聞こえた。
(ん?)
私の頭に疑問符が浮かんだ瞬間、脚立をはさんで向こう側にいる彼が「くっくっくっ」と笑い出した。
口元を手で押さえ、顔をそらして笑う彼を、私はぼーぜんと見つめた。


「っ・・・あんた面白いな。さんきゅ、借りてくぜ。」


思う存分声を押し殺して笑った後、彼は脚立を持って今までいた場所へ戻ってしまった。
私はそれを、ぼーぜんとしたまま見送った。

(・・・笑われた?)
そう自覚した瞬間、100トンの重りが頭を直撃した。
ぐわんぐわんと頭の中に衝撃が木霊する。
笑われた笑われた笑われた・・・

(消えれるものなら消えてしまいたい・・・!)

ショックのあまり自力で立っていられなくなった私は、近くの本棚に手をついた。
まるでこれじゃあサルの反省ポーズだ・・・と頭の冷静な部分が突っ込んでくれたが、それどころじゃなかった。

(最初の会話が・・・これだなんて・・・)
自分的に最悪のファースト・コンタクトだった。










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***
あれ・・・?ギャグ?
ヒロインは普通の女の子っぽい女の子になる・・・予定だったのに。
ま、何はともあれ会話はした(?)からよしとしよう。(開き直り)