あれから、どれだけの時間が経っただろう。
突然訪れた夢の終わりは、こんな形で訪れた。
“久しぶり―――また会えたね。”
心の中で描いた未来が、今ゆっくりと現実になる―――
Dearest
「、ばいばーい。」
「うん、また明日ね〜!」
私は今、セントラルの錬金術の学校に通っている。
最初は慣れない環境で四苦八苦していた私だったが、流石にセントラルの生活にも慣れて、友人もそこそこ出来て、今は楽しいキャンパスライフを送っていた。
セントラルに来て早1年。
急激に変わった全てのものが、今になってやっと“いつも”として定着してきた。
学校を出た私は、今日も通いなれた道のりを辿って、いつもの場所へたどり着く。
この国で一番の蔵書を誇る、国立中央図書館。
故郷を離れた私の、新しい“いつもの場所”。
別に錬金術の勉強をするためというわけではない。いや、確かにそれも目的だけれども、きっと私の本当の理由は別のところにあった。
無意識に寄せる期待。
こんなに月日が経っても、忘れられなかった人。
あの日描いた理想は、まだ私の心の奥で鮮やかに残っていた。
***
あの人と出会ったのは、4年前、私の長期休みの途中だった。
本当に偶然に出会った人は、同じ子供なのに子供ではなくて。
気になって目の端で見ているうちに、興味は恋へと形を変えた。自分でも、気づかぬうちに。
初めての、恋だった。
そんな喜びに浸っていられたのもつかの間、目の前にはどうしようもないほどの辛い現実があった。
突然告げられたタイムリミット。
私はあのときほど、この世の無情さを痛感したことはなかった。
告白すべきか否か、迷いに迷った。どうしようもなく締め付けられる胸の痛みに、泣きはらしたこともあった。
それでも、思いを告げることは出来なくて。
そして最後のとき、かすかに告げられた「また」の約束。それは、あまりにも曖昧で優しい、未来の理想像。
依存したわけじゃない。でも、叶ったらいいと思った。
この広い世界で、また偶然会うなんて奇跡にも等しいことだとは分かっていた。でも、願わずにはいられなかった。
また、会いたい―――
そう願った相手が、国家錬金術師だということを知ったのは、それからまもなくだった。
嘘だろうと思った。でも、それまで見てきた彼の姿勢に納得させられるものを感じた。
最年少国家錬金術師、エドワード・エルリック
それが、私が恋した人の名前だった。
かなうわけないと、分かってはいた。
それでも、追いつきたいと思った。
私に錬金術の楽しさ、厳しさを教えてくれた彼に、少しでも近づきたいと思った。
“次会うときは、同じ立場で会いたい”
その瞬間、彼は私の目標となった。
辛いとき、もう帰りたいとさえ思ったとき。何度もあった。
そんなとき、ふいに思い出す言葉。
出会って間もないころ、彼に言われた、大切なこと。
“大事なのは、諦めずに続けること”
いつだって、それを思い出して、くじけそうになる心を叱咤してきた。
そして彼と交わしたたった1つの約束を思い出す。あの夜、彼の満足げな笑みと共に。
錬金術を続ける・・・と。彼と交わした、たった一つの確かな約束。
そうすると、また頑張ろうと思えるのだ。
私はいつだって彼に支えられている。
あの短い間に、私はたくさんのものをもらった。
そして今も、私の目標として、大切な人として、私を支えてくれる人。
彼がいたから、頑張ってこれた。そしてこれからも頑張っていける。
諦めずに努力するという、彼から貰った姿勢は、私の唯一誇れるものとなった。
会いたいと、いつだって思っている。
けれど、私の意地がそれを純粋に思うことを拒んでいた。
もう少し、もう少し、彼に近づいてから―――と。
今すぐにでも会いたいと思う今も色あせぬ恋心と、錬金術師として彼を目標と定める信念。
どちらも私で、どちらをとることも、切り捨てることも、私には出来なかった。
だから、セントラルに来てからというもの、真剣に彼を探すことはなかった。
今はまだ猶予が欲しい。でも―――会いたい
会いたいという想いは錬金術を身近に感じるたび、彼の噂を聞くたび、セントラルの町並みを歩くたび、強まっていって。
理性と意地で押さえつけるには、想いが大きくなりすぎて。
ついに、私はひとつの妥協案を自分に提示した。
もし・・・もし、奇跡が起こったのなら・・・と。
運試しのような図書館通いは、こうしてまた、幕を開けたのだった。
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***
1万ヒットお礼何がいい?というアンケートにてぶっちぎりで票を獲得した『初恋』の続編。
お待たせしました。連載開始です。
まずはプロローグと称して状況整理をしました。前連載から時間が経っているので。
またしばらく、お付き合いくださいませ。
水野皐月