あれから数日が経過した。
相変わらずの毎日が相変わらずすぎている。
昼間は図書館で本と睨めっこ。
夜はクラウドの相手。
最初はうざったかったが、人には適応力というある意味素晴らしいものがあるらしい。
なんかもう、普通に受け入れるようになってきていた。あぁ、自分が恐ろしい・・・。

そんなある日・・・





「これが・・・こうなって・・・んでもって・・・あ、あれ?」


昼下がりの図書館に、の「わからーん!」という叫びが木霊した。
最近はよく目にする光景だ。
というのも、ちょっと前から錬金術の勉強をし始めたのだ。
の前には、初歩的な錬金術の本が広げられていた。
最初は自力でもできると踏んで頑張っていただったが、意外に錬金術は難しかった。
人に聞けばいいのだろうが、なんとなく悔しい。が、自分の限界はひしひしと第三者の介入を望んでいた。


「こうなったら・・・。」


背に腹は変えられないかと腹をくくり、は意気込んで席を立った。
もしものときの教師役に、一人心当たりがあったのだ。





***





「ねー、エド・・・。」

「んあ?なんだよ、。」

「錬金術教えて?」

「はぁ?」


そうが言い出したのは、ある昼下がりの図書館だった。
暖かいお日様の下、いつものように黙々と本を読み漁っていたエドワードの下にがやってきたのだ。


「はぁって・・・教えてくれるって約束したじゃない!」


そう言って憤慨するを見つつ、エドワードはそういえば・・・と記憶を思い起こす。
をよくみれば、ちゃっかりと錬金術の本を持っており、やる気満々だ。
エドワードは、そっとため息をつくと、本にしおりを挟み、隣の席をひいてやったのだった。





***





「ここがこうなるだろ?んで、ここにこの図形を当てはめてだな・・・。」

「・・・なんで?」

「はぁ?こうしなきゃ成立しねぇだろうが。」

「だから、何で?」

「だ〜か〜ら〜・・・これだけじゃ不安定なんだよ。」

「これじゃ駄目なの?」

「それだとだな・・・相性が悪いんだよ。」

「何で?」

「何ででも。」


説明が面倒になったのか、エドワードの返事がそっけなくなっている。
1時間ほど前から、エドワードは延々に錬金術をレクチャーしていた。
幸いなことには等価交換などの基本は理解しているため、今は練成陣の構成方法の勉強中だ。
だが、これがなかなか進まない。


「もう!ちゃんと説明してよ!」

「オレだって頑張ってるじゃねーか!」


普段は短気なエドワードが、1時間も根気よく教えているのは確かに珍しいことかもしれない。
だが、分からないものは分からないのだ。


「なんでこんなものをやすやすと理解できちゃうかなぁ・・・。」

「んなこといわれても・・・。」


ぶちぶちと文句をいい始めたにどう答えていいか分からず、エドワードは困惑する。


「こんなものを何となく小さい頃に理解したって?なんてーかもう、アンビリーバボー・・・。」

「・・・。」


なーんか言動が怪しくなってきたぞ・・・とエドワードは内心身構える。


「ねぇ、エド。一回脳味噌入れ替えてみない?」

「出来るか!!」


案の定破天荒な提案をしてきたに、エドワードはすかさず突っ込む。
は不服そうな顔をした。


「相手の立場に立って物を考えるってことはとっても大切なんだよ?」

「だからといっていくらなんでもそりゃ無茶だろーが!」

「何でよ!脳味噌をとっかえるんだから、等価交換の原則にはのっとってるじゃない!」

「錬金術を使ったって無茶だそんなもん!というか、中身の量が等価じゃねーんだよ!」

「んな・・・なんですってぇ〜〜!!?」





***





「ちょっと酷いと思わない!?」


その夜、はいつものように現れたクラウドに思いっきり愚痴っていた。
ヒステリックに叫ぶ少女を、クラウドは苦笑しながら見守る。
いつもはそんな笑顔に文句をつけるも、今回ばかりは気にしてなんかいられないようだ。


「確かに私の脳味噌の中身なんてエドに比べたら隕石と石っころくらいに違うでしょうけど!?でもあそこまではっきりと言わなくたっていいじゃないの!!
ねぇそう思うでしょ?ってか笑ってないで何とか言え!!!」

「う〜〜〜ん・・・。」


何か言えといわれても口を挟む隙もないほどまくし立てられていたのだから、したくても出来なかったのが本音なのだが。
とは思っていても口に出すような愚行はおかさないクラウドは、苦笑しながらうなった。が、それがまたの怒りを増幅する。


「あんたねぇ!笑ってれば何もかもがうやむやになるなんて思わないでよね!!ほらほら、ちゃんと意見を言って見なさいよ!!ほら!!」


その姿はまるで酔ったオヤジが絡んでいるようだった。
参ったなぁと思いつつ、クラウドは「まぁまぁ」と両手をかざしながらあとずさる。


「それで?はどうしたいのさ?」

「見返してやりたいのよ!!」

「どうやって?」

「錬金術をマスターして!あいつの目の前で素晴らしい練成をして!驚くあいつに「あんたがいなくても私のはこれくらいチョロイのよ」って見下ろしながら言ってやるのよ!!」

「・・・。」


鼻息荒く意気込む
クラウドはあまりにも子供っぽい報復の仕方に一瞬唖然とした。
が、そのあと笑いがこみ上げてくる。
(ホント、面白い子・・・)
自由奔放な考え方、行動。そして素直な感情表現と飽きない反応。
だから、ついつい構ってしまう。


「ちょっと・・・。」

「・・・・・・・・・え?」

「え?じゃないわよ!!何一人トリップしてんの!私の話聞いてた?」

「え・・・あぁ、錬金術であいつをぎゃふんといわせてやるんだろ?」

「そう!そうよ!あいつがぎゃふんって言うところを想像するだけで思わず笑っちゃうわ!」


あはは!と今から笑い出している少女を見ながら、クラウドは楽しそうに笑った。

(ホント・・・あいつにはもったいないよね)

一瞬、彼の目が冷たく鋭利な輝きを宿したのを、は残念ながら気づくことが出来なかった。





「そうだ!ねぇ、あんた錬金術使えてたわよね?」

「ん?・・・さぁ、どうだったっけ?」

「ふざけてんじゃないわよ!!錬金術使って不法侵入してきたのはどこのどいつよ!!」

「う〜ん・・・ここの僕かな?」

「確認せずともそうでしょうが!!」


相変わらずむかつく態度ね!とまた別の意味で怒り出す。
まったくもう!と怒っていたが、気を取り直したように、でも怒りのオーラはそのままにはクラウドに向き直った。


「だから、無駄に毎日ここ来るんなら、錬金術のひとつでも教えてよ。」

「僕が?」

「そう、あんたが。少なくとも私より錬金術使えるんだから。」


いいでしょ?と高慢な態度はそのままに頼み込んでくる。
(・・・いや、これはむしろ命令?)
そう思わないでもない態度だったが、クラウドはこの強引な態度が精一杯の虚勢だということを見抜いている。
夜に怪しい男と二人きり。出会ったころよりは慣れてきただろうけど、それでも警戒心はまだ残っているはずだ。
それでもそれを態度におくびにも出さず、敢然と立ち向かってくる彼女に、クラウドは軽い賞賛と深い感心を寄せていた。


「・・・まぁ、いいけど・・・。」

「ほんと!?やった、じゃあよろしくね!」

「いいよ。どうやら毎日来ることを許可してくれたみたいだし。」

「・・・は?」

「正直心配だったんだよね。あんまり毎日来るとウザがられるんじゃないかって。」

「あ・・・あんたよくもそんな心にもないことをぬけぬけと・・・っ!毎日来るって宣言したのはあんたでしょーが!!」


ふう、とため息をつくクラウドを、は半ば呆然としたまま見つめていた。が、だんだん意味を理解してきたはふつふつと体の中で何かが煮えたぎっているような感覚を覚えた。
怒りのあまりか震える指をびしぃっと突きつけてわめくに、クラウドは綺麗な笑みを浮かべた。


「じゃ、明日から早速はじめようか、。毎日・・・ね。」


それじゃ、今日はこの辺で。とクラウドはひょいと窓枠に飛び移り、ひらりと手を振って慣れた様子で夜闇に消えていった。
その鮮やかな退場の仕方と言われたセリフに、の怒りは頂点に達した。


「〜〜っ!二度と来るな!馬鹿ーーーーー!!!!!」





流石に騒動に気づいたエドワードに「うるせぇ!」と怒られるまで、あと30秒・・・










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