この地上に生ける神の子らよ
祈り信じよ されば救われん

太陽の神レトは汝らの足元を照らす
見よ 主はその御座から降って来られ汝らをその諸々の罪から救う

私は太陽神の代理人にして汝らが父・・・



「ラジオで宗教放送?」

「神の代理人って・・・なんだこりゃ?」

(あっほらし・・・)


エドワードとアルフォンスがいぶかしんでいるとなりでは呆れたように聞き流していた。

店の店主が、の連れの2人の姿をまじまじと見て答える。


「いや・・・俺にとっちゃあんたらのほうが「なんだこりゃ」なんだが・・・あんたら大道芸人かなんかかい?」


それまで周りに興味なさげに皿の上のポテトをつついていたも、目を丸くして顔を上げた。
この2人の姿を見て出会う人は素晴らしい想像力を披露してくれたが、まさか芸人に見られる日が来るとは。
このおじちゃんはなかなか面白い想像力を持っているようだ。
と感心しているの横では、エドワードが飲み物を噴出している。
いい反応だなぁと思いつつ、はさりげに椅子ごと移動した。
まるで「私は関係ありません」と言いたげに。


「こら待て、。何さり気に移動してんだよ。」

「え?あなただあれ?」


あたしわっかんなーいと言ってそっぽを向く。
エドワードはこんの野郎・・・と拳を震わせたが、自制心をフル活用して大人しく席に着く。
このまま怒ったらの予想通りになってしまう。それはとても悔しい。
つまらなそうなを目の端に捉えながら、今までのやりとりをぽかんと見ていた店主に向かって抗議の声を上げる。


「あのな、おっちゃん。オレ達のどこが大道芸人に見えるってんだよ!」

「いや、どう見てもそうとしか・・・」


困惑したように言う店主に、はこっそりと頷く。
(少なくとも普通の人には見えないわよね)
さっきのやりとりで立派に大道芸人の仲間入りを果たしていることに気づかず、はひとりごちた。
自分は絶対普通の人に見えると言う自信がある。いつも周囲の視線を集めるのは間違いなく同行している人たちのせいだという確信があったのだ。・・・本当のところはどうだか知らないが。

が考えにふけっていると、いつの間にか周囲に人が集まっていた。
会話に耳を傾けてみると、コーネロとか言う人を褒めちぎっている。どうやらコーネロという人はレト教とか言う聞いたこともない宗教の教祖様で、神の御業とか言う奇跡を起こす素晴らしい人・・・らしい。
宗教と言うものを全く持たない、知らない、信じないとしては、どうしてここまで心酔できるのか不思議でならなかった。
甘い言葉ばかりで実は何もしてくれない薄情な宗教は、正直言って好きではない。

そう心の中で悪態をついていると、エドワードがの名前を呼んだ。


「ん?何?」

「食べ終わったか?」

「あ、うん。ごちそーさまです。」

「んじゃ、行くか。」


エドワードの言葉に同意して立ち上がった瞬間、ごちっと言う音に続いて、バゴっという破砕音がした。
思わず首をすくめて音のしたほうを見ると、どうやら屋根の上においてあったラジオを、アルフォンスが立ち上がった拍子に落としてしまったらしい。
文句を言う店主にエドワードが軽く詫びの言葉を入れる。その向こうでアルフォンスがなにやら地面に書き出した。
はその手元を覗き込むようにしながら、小さく呟いた。


「珍しいね。アルが器物破損なんて。・・・どっかの誰かじゃあるまいし。」

「どういう意味だ?・・・。」

「あれ?なんのことだろう。」


ジトッとした目で睨みつけてくる視線を背後に感じ、はしらばっくれながらささっと遠ざかった。黙々と書き続けるアルの正面に回りこんでしゃがむ。


「ほどほどにね、・・・。」

「はーい。」


ちらっと視線をよこして言うアルフォンスに、は手を挙げて答えた。
ちっとも意に介さないにアルフォンスはため息をついた。
まったく、出会ってからずいぶん経つと言うのに、この2人のやり取りは全然変わらない。飽きないのかと聞きたいくらいだったが、片方からは「全然v」と言う返事が返ってきそうだし、もう片方の機嫌が悪くなりそうなので聞けない。聞こうとも思わない。
人はそれを“諦め”と言う・・・


「よし!そんじゃ、いきまーす。」


軽い掛け声とともに、アルフォンスが書き上げた練成陣が発光した。人々が驚く中、それはどんどん形を変え、光が収まった頃には元のラジオが鎮座していた。


「お〜アル、お見事。」

「えへへ・・・。」


が拍手とともに褒めると、アルフォンスは照れたように頭をかいた。
店主はじめ何がなんだかよく分かってない方々は、驚いたように相変わらずの宗教放送を流すラジオをまじまじと見ている。


「こりゃおどろいた・・・。あんた「奇跡の業」がつかえるのかい!?」


そういう店主に、噂に名高いエルリック兄弟は呆れたように自己紹介を始める。
そしていつものように兄と弟を間違われ、挙句の果てにチビ呼ばわりされた兄であり、国家錬金術師の資格を持つエドワード・エルリックが切れていたりするが、そんなことは瑣末なことだ。いつもどおり、いつもどおり。
被害にあわないようにちょっと離れたところでのん気に観戦していたはくいくいと上着の袖を引かれて、足元を見た。
そこには、5歳ほどの女の子が不思議そうに自分を見上げていた。
が首をかしげていると、その女の子が同じように首をかしげながら尋ねてきた。


「お姉ちゃん、あのちっちゃいお兄ちゃんとよろいのおっきいお兄ちゃんのおともだち?」

「え・・・う、うん・・・まぁ・・・。」


無邪気に吐き出された禁句に一瞬血の気が下がるが、向こうは向こうでなにやら取り込み中だったようで聞こえてなかったようだ。
は胸をなでおろすと、女の子に視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。


「そうだよ。それがどうかした?」

「お姉ちゃんも「きせきのわざ」がつかえるの?」

「へ?」


さっきとは違い目をきらきらさせて尋ねてくる女の子に、はあっけにとられる。が、すぐに「あぁ、錬金術のことね。」と呟くと、女の子の目を覗き込んだ。


「ちょっとだけなら使えるよ。でも、あのお兄ちゃんたちに比べたら全然駄目なの。」

「じゃあ、あのお兄ちゃんたちなら何でもできる?」

「え・・・?」


今度は真剣な目をしている女の子にはついていけず、困惑する。


「あのお兄ちゃんたちなら、ピピ、治してくれる?」

「ピピ?」

「うん、この子。」


そういって女の子が差し出したのは、小さい小鳥だった。


「あさ起きたら冷たくなってたの。よんでもちっともおへんじしてくれないの。ねぇ、治る?」

「・・・・・・。」


無理よ、とは言えなかった。でも、できるとも言えなかった。どうすれば、この子は納得してくれるのだろう・・・?


「ねぇ・・・治るよね?」


だって、何でもできるんでしょ?
そういって見上げてくる純粋な瞳に、縫いつけられたように身動きが取れない。のどの奥が凍りついたように痛かった。
返事も出来ず黙り込んでいると、女の子のお母さんらしき人が足早に近寄ってきて、優しくと女の子を引き離してくれた。
見上げると、申し訳なさそうに微笑んで、会釈した。まだ思い通りにならない身体に鞭打って、もぎこちなく会釈を返す。
まだ不思議そうな女の子の手を引いて、お母さんは人ごみの中へと消えていった。


「・・・?」

「・・・え?」


後ろから呼ばれて、慌てたように振りかえると、不思議そうな顔をしたアルフォンスがいた。その向こうで、エドワードが「早く来いよ!」と呼んでいた。
ぼーっとしたようなに違和感を感じたのか、アルフォンスが「どうしたの?」と尋ねてくる。


「・・・?」

「・・・ううん。なんでもない。」


心配そうな声音になったアルフォンスを安心させるために、は務めて明るく微笑んだ。
しゃがんだときについた膝の砂をはらうと、アルフォンスを促してエドワードのもとへ歩き出した。

は心の中で、さっきの女の子に返事を返した。





『生き物は、「死」という病気にかかったら、もう治らないんだよ。たとえ、奇跡というものがあったとしても・・・。』










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原作沿い連載、年明けてやっとスタートです。
感想・・・めんどい(爆)漫画開きながら打つのって凄くめんどくさいです。なので、途中はしょったところがかなりあります。
皆様、原作片手にお読みください。
しかもロゼ出てきてないしね(致命的)女の子と会話しているときにいたんだよ?ほんとはね。

こんな感じで進んでいきます。気長〜にお待ちくだされ。