「死せるものに復活ぅ?」
「そ。それがレト教のウリなんだそうだ。」
「ウリって兄さん・・・。」
ご飯を食べ終えた3人は、当てもなく町を散策していた。
雑談をしながら歩いていると、道の先に大きな建物が見えた。
「あれは〜・・・教会?」
「・・・かな?」
「みたいだな。」
へ〜っとは足を止めて見上げる。
なかなか立派な建物だ。
「・・・ねぇ、入ってみようよ。」
「はぁ?」
の提案に盛大に顔を顰めたエドワードが答える。
「なんでわざわざ・・・。」
「興味があるから。」
「まさか・・・レト教に?」
「まさか。教会に、よ。」
そう言いながらもは既に扉に向かって歩き出している。
結局、兄弟も教会に足を踏み入れるしかなかった。
***
「おじゃましまーす・・・。」
小さい挨拶とともには大きな扉を押し開ける。
しかし、その言葉に応える人もおらず、教会内はがらーんとしていた。
「なんだ、誰もいねぇじゃねーか。」
の後ろから中を覗き込んだエドワードが言う。
そして、なぜか固まったままのを押しのけて中へさっさと入っていってしまった。
黙ったままのを心配して、アルフォンスがためらいがちにを呼ぶ。
「えーと・・・?」
「つまんない。」
「「はぁ?」」
この言葉にアルフォンスはともかく、中を見回していたエドワードも声を上げた。
自分から来たいと言っておいてなんだその感想は。とエドワードの瞳が語っている。
その言外の言葉に気づかず、は口を尖らせた。
「だってさぁ・・・私の想像してた教会と全然違うんだもん。」
また言い出した・・・と呆れる兄弟を尻目に、は自分の「教会論」を披露する。
「教会っていったら熱心な信者さんたちがなにやらぶつぶつ呟きながら神様に向かって祈ってて、賛美歌が流れてて、牧師さんらしき人が経典を読んでて・・・」
「あー・・・分かった分かった。世の中はいろいろなんだよ。残念だったな。」
「あ、流した。」
「いつまでも付き合ってられっか。」
じとっと睨みつけてくるに背を向け、エドワードは祭壇のほうへと歩き出した。
睨むのに疲れたも、大人しく祭壇のほうに歩いてくる。
3人が見上げる先には、太陽を背負ったおそらくレト神のレリーフがあった。それは見上げるほど大きく、足元には天使が2人ほどレト神を見上げている。
「へ〜・・・これがレト神かぁ・・・。」
「案外普通ね。」
感心したような声を上げるアルフォンスの傍ら、辛らつなの言葉が突き刺さる。
じゃあ普通じゃない神様ってなんだよ・・・とエドワードは思ったがあえて口には出さず、近くの椅子にどっかりと座る。
それにつられるようにも腰を下ろした。
しばらく会話が途絶え、元の静寂が蘇る。
エドワードはをちらりと盗み見た。
エドワードの視線に気づかず、はぼんやりとレト神を見上げている。
と出会ってから1年以上経った。自分は15になり、弟は14、そしては17。
そこではたと思い当たる。そうだ、彼女は自分より2つも年上なのだ。
(それなのに・・・)
なんでこんなに言動が幼いんだ。とエドワードは嘆いた。
最初であった時は16にしては落ち着いてると言う印象を持った。なのに、一緒に旅するようになってからは、そのイメージは音を立てて崩れていった。いや、もしかしたら一緒に暮らしていたときから幼くなっていったのかもしれない。だが、旅にでてからさらに酷くなった気がする。常識人かと思いきや、よく分からない固定観念を披露するときもあるし、実は方向音痴気味なのにふらふらと出歩くこともある。なんていうか・・・
(手のかかる妹ができた気分だ・・・)
常に見守っていないと不安で仕方ない。姿が見えなくなると探さずにはいられなくなる。
旅をし始めてからの様々な出来事が走馬灯のように駆け巡り、エドワードはため息をついた。
一方のは、先ほど会った女の子に思いをはせていた。
レト神の(エドいわく)ウリである“死せるものには復活を”と言う言葉が、さっきから頭をぐるぐると回っている。
この神に本当に祈ったら死んだ人は生き返るのだろうか。どのくらい祈ったら、その願いは叶うのだろうか。・・・信じれば、いつか報われるのだろうか。
願うだけで生き返るなら、医療なんていらないよな・・・と少し外れたことを考えてみる。もし祈って生き返るなら、今頃医師は全員祈祷師にでもなっているはずだ。
(そういえば、私が“死”を自覚したのっていつだっけ・・・)
考えてみるが、いつなのか判別がつかない。父に内緒で飼っていた猫が死んでしまったときだろうか。それとも、嵐の後に落ちていた小鳥を見てからだろうか・・・。どれもそうだったように感じるし、違ったかもしれない。もしかしたら、読んだ本に書いてあったものの受け売りなのかもしれない。
そこまで考えて、は頭を振った。考えても埒が明かない。
どうすれば、人に“死”を教えることができるのだろう。
それぞれがそう思っていると、不意に扉が開き、人が入ってきた。
「あら、たしかさっきの・・・。」
驚いたような声の方向を見ると、そこには髪の長い女の人がたっていた。口ぶりから言って、どうやらエドワードたちと面識があるようだ。
会った事あったっけ?とが自分の記憶を手繰っていると、エドワードと女の人は会話を始めた。
どう考えても思い当たらないので、ここはひとつアルフォンスに聞いてみることにする。
「ねぇ、アル。あの女の人、誰?」
「え?あぁ、ロゼさんだよ。」
「ロゼさん?」
「そう、さっきご飯食べた店で会ったんだ。・・・・・・まぁまぁ、兄さん、悪気はないんだから抑えて抑えて・・・。あのときいなかったから知らないのも無理はないよ。」
「ふーん・・・。」
禁句に怒るエドワードを諌めつつ会話も続けるという器用なことをしながらアルフォンスが答える。
その様子には手馴れたものを感じながら、「あぁ、あのときね・・・。」と納得する。
ちょうど、自分が女の子と会話をしていたときだ。
へぇ〜・・・と言いながら2人の会話をアルフォンスと一緒に見守る。
神様を信じてやまないロゼと、神なんてものを信じないエドワードと。決して分かり合えない壁がそこには存在していた。
本当に信じたら、願いは叶うのだろうか・・・。
もし本当に叶うなら・・・死んでしまった人が蘇るなら・・・私は、やりたいことがある。
伝えたい言葉が・・・ある。
***
広場にはたくさんの人が集まっていた。
(うわ・・・もしかして町中の人が集まってんじゃないの?)
と、はあまりの人の多さに絶句する。
あれから教会を出て街を散策していたら、教主様が奇跡の業を披露してくれると言う話を聞いた。
そして早速、見に来たというわけだ。
小さい花がどこからともなく舞い落ちている。
レト神の像の前に立った教主はその花を受け止めると、両手に包み込んだ。
ボッという音とともに光り、そこには大きなひまわりの花があった。
マジックを見ているような感覚に、は思わず感動する。
その横では、冷静なエルリック兄弟の会話が展開されていた。
「・・・どう思う?」
「どうもこうも、あの変成反応は錬金術でしょう。」
「だよなぁ・・・。」
その会話を耳に入れつつ、は周りを見回す。
人々は口々に歓声を上げ、奇跡の業をねだる。
その中に、ふと知ってる顔を見つけた。
ロゼだ。
向こうもこちらの・・・正確にはエドワードたちに気づいたらしく、こっちに歩いてくる。
「お二人とも、来てらしたのですね。どうです!まさに神の力でしょう。コーネロ様は太陽神の御子です!」
誇らしげにいうロゼに、エドワードはまたしても辛らつな言葉を投げつける。
むっとするロゼを見ながら、はちらっとコーネロに視線を投げかけ、ため息をついた。
その心中は、
(神の御子があんなじゃ嫌だなぁ・・・なんていうか・・・ビジュアル的に。レト神ったら、なにも剥げたオヤジを自分の御子に選ばなくても・・・。)
という失礼極まりないことを考えていた。
そうこうしているうちに、いつの間にかロゼと兄弟の会話が錬金術講座になっている。
さっぱり理解できてない様子のロゼに、は以前の自分を思い出し、同情していた。
エドワードに錬金術を教えてもらおうとすると専門用語がずらずら出てきて分かりにくい。
なので、はもっぱらアルフォンスに頼っていた。もしくは独学。・・・一部他人の力を借りたが。
あの苦労の日々を遠い目をして思い返していたら、いつの間にか何かの話がまとまったようだ。
「おねぇさん、ボクこの宗教に興味持っちゃったなぁ!ぜひ教主様とお話したいんだけど、案内してくれるぅ?」
(は・・・?)
今の声はもしかしてもしかしなくてもエドワードだろうか。
なんて、わざとらしい・・・。いつからお前の一人称は“ボク”になった。
あれでは興味持ってないも同義じゃないか。
思わずアホか!と内心突っ込んでみる。
しかし、ロゼ嬢はそんなことを疑問にも思わなかったようだ。ころっと信じて親切にも案内してくれるらしい。
「おーい、、行くぞ〜!」
「はいはい。」
は突っ込むことを諦め、エドワードの下へかけていった。
***
「あの・・・あなたは?」
「へ?」
教会に向かっている最中に訝しげにロゼから問いかけられ、そういえば自己紹介もしていなかったと思い当たる。
「あぁ・・・。初めまして。この2人と一緒に旅をしているといいます。よろしく。」
「そうだったんですか。私はロゼといいます。こちらこそよろしく。」
そういって、お互い簡単に握手を交わす。
「さんもレト教に興味がおありですか?」
「・・・はい?」
と輝くような目で問いかけられ、は笑顔が引きつる。この瞳を目の前にしたらなんとなく否定しにくい。
「いえ・・・特には・・・。」
「宗教はもうお持ちですか?」
「いえ・・・基本的に信じないタイプですので・・・。」
「まあ、そんないけませんよ。神を信じ敬い生きる・・・。これはとても素晴らしいことなんですよ。」
そういってきらきらと瞳を輝かせる彼女に、は「はぁ・・・。」と生返事を返すしかない。
「信じれば、きっとあなたの願いも叶います!」
「・・・そうでしょうか?」
「そうですよ!きっと、レト神が叶えてくださいます!」
とたんにの表情が暗くなったことにも気づかず、ロゼはレト神の素晴らしさを語る。
それを、さっきとは全く違う笑顔で、無理に取り繕ったような笑顔で聞くを、兄弟がなんともいえない表情で見ていた。
もし、ほんとに願いが叶うのなら・・・やり直したい。あの日から、全てを・・・・・・。
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***
え〜・・・原作片手に読まないと分からないですね、これ。すみません。読者に分かりにくい小説ですみません。(ぺこぺこ)
全然進まないのは、ひとえに私の力不足ですね。精進します。
じつはひっそり、ほんとにひっそり番外編とリンクさせてみたり。・・・番外編がそこまでいってないので分からないと思いますが(駄目じゃん)。
現時点ではお相手すら出てきてないもんな、あっち(駄目駄目です)。
では、何はともあれ、次回もお付き合いください。