「教主、面会を求める者が来ております。」
男は教主のプライベートルームのドアを開けながらそう報告する。
「子供と鎧を着たエルリック兄弟と名乗る2人組みと、その連れだと名乗る少女の計3人です。」
「なんだそれは。私は忙しい。帰ってもらえ。」
くつろいでいた教主はその報告に眉を顰めるが、すぐにその顔には驚きの色が浮かぶ。
「! いやまて、エルリック兄弟だと?エドワード・エルリックか!?」
「はぁ、確か子供のほうがそう名乗っておりましたが・・・お知り合いで?」
「〜〜〜〜ッ、まずいことになった!“鋼の錬金術師”エドワード・エルリックだ!」
その言葉に部下らしい男も血相を変える。
とたんにうろたえだした。
しきりに何らかの計画を危惧しているようだ。
そして話し合いの結果、2人の間に結論がまとまった。
「・・・やつらはここには来なかった・・・・というのはどうか?」
「! 神の御心のままに・・・。」
***
「さぁ、こちらへどうぞ。」
そう言って中に案内されながら、は何となく嫌な予感がぬぐえなかった。
不安そうな顔をしながら、列の最後尾にくっついていく。
こんなに怪しい団体に、そうそう教主が会ってくれるんだろうか。
普通の慈悲深い教主なら会ってくれたかも知れない。あの笑顔が、本心から出ていたものならば。
は広場で見たあの笑顔に違和感をぬぐえなかった。あれは、作られた仮面だ。
以前の私と・・・同じ。
「教主様は忙しい身でなかなか時間が取れないのですが、あなた方は運がいい。」
「わるいね。なるべく長話しないようにするからさ。」
「えぇ、すぐに終わらせてしまいましょう。
・・・このように!」
その直後、ガンという音とともに、先頭のアルフォンスの頭が吹っ飛んだ。そのままアルフォンスは倒れこむ。
それを合図に、近くにいた2人の教団関係者がエドワードを長い棒で拘束する。
は1人の教団関係者によって後ろから羽交い絞めにされた。
腕をねじり上げられて、痛みに出かかった悲鳴を押し込める。かわりに、背後の男をきっと睨みつけてやった。それには嫌な笑いが返ってくる。は悪い予感が当たったことと、捕まってしまったことに唇をかみ締めた。
「師兄!何をなさるのですか!」
ロゼの非難にも、男は当たり前のように答える。
「ロゼ、この者たちは教主様を陥れようとする異教徒だ。悪なのだよ。」
「そんな!だからといって教主様がこんなことお許しになるはず・・・」
「教主様がお許しになられたのだ!」
思わず絶句するロゼに、男は笑いながら言う。
「教主様の御言葉は我らが神の御言葉・・・これは神の意思だ!」
その言葉とともに、銃口がエドワードに向けられる。
その瞬間・・・
「へーーー。ひどい神もいたもんだ。」
その声とともに誰かの腕が横から銃を掴む。
頭を吹っ飛ばされ、倒れたはずのアルフォンスだった。
銃を持った男の顔が驚きと恐怖に染まる。
事情を知らない教団関係者も驚きに身を固める。
隙ができた。
手始めにエドワードが拘束していたうちの1人の腕と胸あたりを掴み、背負い投げをする。
同時に、アルフォンスの拳が銃を持った男の顔にクリーンヒットした。
エドワードを抑えていた片割れが、恐ろしさのあまり逃げ出そうとするが、エドワードの投げたアルフォンスの頭が直撃し、撃沈した。
「っしゃ!ストライク!」
「僕の頭!」
万事オッケーと親指を立てるエドワードにアルフォンスが怒る。
といえば・・・
「ねぇ、そろそろ離してくれる?」
そう低い声で呟いた。
行動を起こそうと、腰を低くする。腕が痛んだが、そんなことはこの際どうでもいい。
「痛いんだけど!?」
そう叫ぶと同時に片足を跳ね上げた。
狙いは違わず、男の急所にクリーンヒットする。
男はそのまま床に倒れこみ、声にならない悲鳴を上げながら悶絶した。
ごろごろと転げまわっている。
それを腕をさすりながら、ざまーみろと言うように不敵な笑みを浮かべながらが見下ろしていた。
その様子を一部始終目撃したエルリック兄弟は、青ざめながら床で悶絶している男に同情の目を向けていた。
((うわ・・・あれは痛い・・・))
もしものときはそうやって抜け出せと以前教えたが、まさか本当にやるとは思っていなかった。
には逆らうまい・・・
そのとき兄弟の心は一つになった。
「どどど・・・どうなって・・・!?」
しーんとした空間に、ロゼの驚きの声が響いた。
振り向くと、ロゼは驚きと恐怖の表情でアルフォンスを指差している。
「どうもこうも。」
「こういうことで。」
そう言ってアルフォンスは腰をかがめて空洞の中を見せ、エドワードは鎧を叩いてみせる。かんかんと、空しい空洞音がした。
はアルフォンスの頭を拾い上げると、静かに歩み寄っていく。
「なっ、中身がない・・・。空っぽ・・・!?」
絶句するロゼに、から受け取った頭をつけながらアルフォンスが答えた。
「これはね、人として侵してはならない神の聖域とやらに踏み込んだ罰とか言うやつさ。・・・ボクも、兄さんもね。」
「エドワード・・・も?」
ロゼに見つめられて、エドワードは頭をかく。
それを肯定と受け取ったのか、ロゼはさっきから黙ったままのに目を向けた。
「も・・・なの?」
震える声で尋ねられたは、悲しそうな顔をしながら静かに首を振った。
その答えに、ロゼは小さく「そう・・・。」とだけ答えた。
「ま、その話はおいといて・・・神様の正体見たり・・・だな。」
その声にロゼはぱっと顔を上げた。
「そんな!何かの間違いよ!」
「あーもー、このねぇちゃんはここまでされてまだペテン教主を信じるかね。」
呆れたように言うエドワードにも同意した。
いくらなんでもここまでされたら考えを改めるだろうに。なにが、彼女をこんなに縛り付けているのだろう。
頑ななロゼに、エドワードは言った。
「ロゼ、真実を見る勇気はあるかい?」
***
たちはロゼの案内で一つの大きな扉の前まで来ていた。
「ロゼの言ってた教主の部屋ってのはこれか?」
「・・・なんじゃない?」
そう言っては通路を見回した。
「これが一番大きいし、いかついし・・・いかにもって感じ。」
「だな。」
そう言って手をかけようとすると、ひとりでにギギイィという音を立てて扉が開いた。
「へっ、『いらっしゃい』だとさ。」
挑戦的な光をその瞳に湛え、エドワードたちは部屋の中に入った。
全員が入るとひとりでに扉が閉まる。
同時に、ラジオから聞こえてきた声が広い空間内に響いた。
「神聖なる我が教会にようこそ。」
声のほうを見ると、部屋の向こう側、階段の上に、先ほど広場で見た教主様が立っていた。
曰くの嘘っぽい笑顔を湛えて。
「教義を受けにきたのかね? ん?」
「あぁ、ぜひとも教えて欲しいもんだ。せこい錬金術で信者を騙す方法とかね!」
「・・・さて何のことやら。」
あくまでも錬金術を否定し、善良な教主を演じる気のコーネロに、エドワードはカマをかけていく。
すると、だんだん本性が現れてきた。
結局、錬金術を認め、賢者の石を認め、ついでに勝手に自分の野望をべらべらと喋ってくれた。
(なんておしゃべりなオヤジだ・・・)
は2人のやり取りを見守りながら思った。
まぁよくもいらんことまで喋る喋る・・・。
ま、こちらには好都合なんだけど。
はこっそりと笑った。
それにしても・・・
(ムカつく笑い方するわね・・・)
「いや〜さすがは教主様!いい話聞かせてもらったわ。」
とエドワードが気のない拍手を送りながら言う。
「確かにオレの言葉にゃ耳も貸さないだろう。・・・けど!」
アルフォンスが自分の鎧の前を外した。
「彼女の言葉にはどうだろうね。」
そこには、顔色を悪くしたロゼが入っていた。
驚く教主に、ロゼは噛み付かんばかりに詰め寄る。
はその中の「あの人を甦らせてはくれないのですか!?」と言う言葉に違和感を覚えた。
“あの人”って・・・誰?
甦らせるって・・・どういうこと?
そのの問いに答えるように、教主がロゼに甘い言葉を囁く。
「確かに神の代理人と言うのは嘘だが・・・この石があれば、お前の恋人を甦らせる事も可能かも知れんぞ!」
・・・と。
の中でやっとパーツが繋がった。
どうしてロゼがあそこまで頑なに教主を信じていたか。
いいや、とは首を振った。
信じていたんじゃない。縋っていたんだ。
死んだ人も甦るという甘い麻薬にも似た教えに、縋りついていたんだ。
すべては、愛する人を失った悲しみゆえ。愛する人にまた会いたいという、願いゆえ。
そして彼女は、エドワードたちの制止も振り切り、真実を知った今も、一筋の頼りない希望に縋ってしまった。
「さて、では我が教団の将来をおびやかす異教徒は、速やかに粛清するとしよう。」
そう言いながら、後ろの壁のレバーを下ろす。
どこかで重い扉の開く音がし、暗がりの中から、怪物が現れた。
それは、蛇の胴体にこうもりの羽が生えていた。
俗に言う、キメラというやつだ。
「うわ、なにあれ・・・気持ち悪い。」
「って、キメラ見るの初めて?」
「うん。実物は初めて。」
「そっか〜・・・。」
とのん気に会話をしていると、キメラが戦闘態勢に入るのが見えた。
「しょうがねぇ。よし、やるぞ、アル。」
「おっけー。」
「おー・・・頑張れ〜。」
ともに戦闘体制をとる兄弟に、気のないエールが送られる。
それに少し戦う気を削がれた。
恨みがましくを見ると、あはは〜と笑って手を振っている。
その緊張感のなさに呆れながら、気を取り直して、構えた。
こうして兄弟vsキメラの戦いの火蓋が切って落とされたのだった。
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***
ちょっと長くなるのでここで止め。
オリジナルのキメラを作ってみたり。これはひとえにやってみたいことがあるからです。
次回ヒロイン活躍(?)します。
今回はちょっとヒロインが活躍して私的に大満足。
ポイントは痴漢&変態撃退法の常套手段お披露目(笑)。
私はやったことないのでよく分かりませんが、効くらしいですよ、あれ(笑)。