こうもりもどき(命名)は大きく翼を広げ、高く飛んだ。
こうもりもどきといっても、そのでかさは普通のこうもりではない。
全長2メートルくらいはあるのだ。
そいつはそのまま・・・
・・・に向かって突っ込んできた。
「へ?・・・えぇ!?」
「「!」」
予想外の出来事に、は一瞬ぽかんとするも、すぐに我に返ると慌てて避けた。
勢いあまったこうもりもどきが床に突っ込み、大きな音とともに破片が砂状になり、舞い上がる。
それにむせながら、は距離を持とうとあとずさった。
砂煙の中から、またこうもりもどきが空に舞い上がる。
「危なっ・・・!ちょっとそこのこうもりもどき!あんたの相手はあの2人でしょうが!」
怒りのあまりは叫んだが、またこうもりもどきはめがけて急降下してくる。
「ちょっ・・・うわぁわわぁ!」
は変な悲鳴を上げながら必死に避ける。
「いい忘れておったが、そいつは若い女が好きなのだ。」
教主の余裕な声が、のん気に付け加えてくる。
今度は低空飛行で追いかけられているの米神に、ぴきっと怒りマークが浮かび上がる。
「っの!先に言え!三流ペテン!」
「んなっ!ええぃ!おい、何をしている!さっさとその小娘を殺れ!」
のセリフにカチンときたのか、教主は身を乗り出して叫んだ。
それに呼応するかのように一声鳴くと、獲物を捕らえようと口を開き、スピードを上げる。
「スピード上げんなバカ〜!エド、アル!どっちでもいいから何とかしてよ!」
そう言いながら逃げるは、兄弟から見れば結構余裕に見える。
しかも、スピードを上げたにもかかわらず、キメラはに追いついていないのだ。
むしろその逃げっぷりに感嘆してしまう。
が、そういつまでもの体力は持たないだろう。
「ボクがやるよ。」
「そか?んじゃ、任せた。」
「どっちでも、いいから、早く〜〜!!」
のん気に相談している兄弟に、さすがに息が切れてきたが声を張り上げる。
アルが、手早く床に練成陣を描きだした。
「・・・っと、完成!!こっち!」
「っ!ラジャ!」
手を上げて合図したアルフォンスに向かって、は後ろにキメラを連れたまま走る。
そしてそのまま、練成陣を飛び越した。
勢いを殺せず柱にぶつかりそうになったをすかさずエドワードが抱きとめる。
その後ろで、練成陣が発光し、長い針山が出現した。
それは狙い違わず追ってきたキメラを串刺しにする。
呻いたっきり動かなくなったキメラを横目で確認した後、はぐったりとエドワードにもたれかかった。
上がりきった息が苦しい。久々に全力疾走したせいか、足がだるかった。
「お疲れさん、。」
そう言ってエドワードが背中をぽんぽんとたたく。
そして、崩れ落ちそうなをアルフォンスに託すと、苦虫を噛み潰したような顔の教主を見上げる。
「残念だったな、教主サマ。」
「ぐぬぬぅ・・・!まだだ!まだ最強のキメラが残っておる!」
そういうと、また別のレバーを下げた。
重い扉が開く音がし、また別のキメラが出てきた。
今度は、上半身がライオンで下半身がワニだ。例外なくこいつもでかい。
ライオンもどき(命名)はエドワードを敵と認識したのか、低く唸ると戦闘体制をとった。
「またでかくて趣味が悪い・・・。」
キメラってこんなのばっかなの?と呆れると、「うーん・・・。」と返答に困っているアルフォンスを尻目に、エドワードは短くため息をついた。
その顔に焦りの色はない。
「こりゃあ丸腰でじゃれあうにはちとキツそうだな・・・と。」
そう言いながら両掌をあわせ、ぺたっと床に手をつく。
直後、練成の光がほとばしり、薄暗い部屋が一瞬明るく照らされる。
エドワードが床から手を離すと、それに吸い付くようにずずっと何かが床から出てくる。
それは、一本の槍だった。
教主は練成陣なしの練成に驚いたが、自分のキメラによほど自信を持っているのか、余裕の顔で攻撃を指示した。
ライオンもどきは、長い前足の爪で槍とエドワードの左足を切り裂いた。
エドワードの口から、小さく苦悶の声が漏れる。
が、次の瞬間、エドワードはにやりと笑った。同時にキメラの爪が折れる。
その隙にエドワードの蹴りがキメラの腹に命中した。
「あいにくと特別製でね。」
予想外の展開に混乱しながら、教主は次の攻撃を指示する。
それに従ってキメラはエドワードの右腕に噛み付いた。
が、異変が起こったのは、噛み付かれたエドワードではなく、噛み付いたキメラのほうだった。
「どうしたネコ野郎。しっかり味わえよ。」
エドワードの蹴りが、今度はあごを直撃する。
そのまま、キメラは動かなくなった。
「ロゼ、よく見ておけ。これが・・・人体練成を・・・神様とやらの領域を侵した、咎人の姿だ!」
そう言って服を破り捨てたあとには、鋼の義肢「オートメイル」の腕が現れたのだった。
***
「なるほど・・・そうか、貴様・・・。」
と薄笑いを浮かべながら納得する教主。
ただ一人分かっていないロゼに向かって、親切に説明し始めた。
なぜ銘が「鋼」なのか。
なぜ、ああなってしまったのかを。
そして、アルフォンスの口から、そのいきさつが静かに語られ始めたのだった。
それを、は静かに見守っていた。
苦しそうな声が、その過去の重さと、辛さを物語る。
ふいに、自分に話してくれたときのことを思い出した。
あのときも、同じように苦しそうな声と表情で話してくれた。
過去を振り返るのがどれだけ辛く、勇気のいるものかは知っている。
「へっ・・・二人がかりで一人の人間を甦らせようとしてこのザマだ・・・。ロゼ、人を甦らせるって事はこういうことだ。
・・・その覚悟があるのか?あんたには!」
エドワードの鋭く、重い言葉に、ロゼは何も言い返すことができない。
彼女にもやっと分かったのだろうか。人を甦らせるということの計り知れないほどの代償を。
信じてどうにでもなると言う代物ではないと言うことを。
「くくく・・・エドワード・エルリック!!貴様それで国家錬金術師とは!!これが笑わずにいられるか!?」
そう言って笑い続ける教主に、はうっすらと殺意に似た感情を覚える。
(今すぐあいつの口にガムテープを貼り付けてしまいたい・・・!)
っていうか、二度と喋れないようにしてくれるわ!と心の中で叫びながら睨みつけていると、
「くく・・・神に近づきすぎ、地に堕とされたおろか者どもめ・・・。ならばこの私が今度こそしっかりと・・・神の元へ送り届けてやろう!!」
そう言って、杖をマシンガンに練成し、エドワードたちに向けて乱射してきた。
「・・・っ!」
は咄嗟に身をすくませ、自分の顔を守ろうと腕をクロスさせる。
ドガガガガという音と、教主の高笑いが広い空間に木霊した。
教主の気が収まり、硝煙の煙がはれると、そこには大きな壁が作られ、銃弾を防いでいた。
「いや、オレって神様に嫌われてるだろうからさ。言っても追い返されると思うぜ!」
咄嗟にエドワードが座り込んでいたの前に回りこみ、床から壁を練成したのだ。
「エドっちナイス!」
「変な呼び方すんじゃねぇ!」
ぐっと親指を立てて言うに、エドワードが反射的に怒鳴る。
教主がそれに気を取られているうちに、アルフォンスがロゼを救出した。
それに気づいた教主がロゼがいるにもかかわらず、アルフォンスに向かって銃を乱射してきた。
痛くもないだろうに「あだだだだ・・・」と言いながら、アルフォンスは走る。
「アル!いったん出るぞ!」
教主の気が逸れたと同時に駆け出していたエドワードがアルフォンスを呼ぶ。
4人は扉のほうへ走っていった。
「バカめ!出口はこっちで操作せねば開かぬようになっておる!」
「あぁそうかい!」
教主の言葉にもひるまず、エドワードは両手を打ち鳴らし、扉のすぐ横の壁に手をつく。
激しい練成反応が起こった。
「出口がなきゃ、作るまでよ!」
そこにできたのは、元からある扉と同じぐらいの大きさで、ちょっといかつい扉ができていた。
驚く教主を尻目に、その扉を蹴破り、廊下へ飛び出す。
いきなりの出来事に唖然とする教団関係者を綺麗に無視し、4人は脱兎のごとく逃走を開始した。
教主の指示で、我に返った関係者がわらわらと行く手を阻む。
「オレの後ろから離れるなよ、!」
「言われなくとも!」
そういうと、エドワードは走りながら右手のオートメイルを鋭い刃物に練成する。
スピードは落とさず、教団関係者をなぎ倒していった。
その隣りで、アルフォンスも敵を足蹴にしていく。
(いや〜楽だわ)
何もしなくても敵が倒れていく。とエドワードの後ろをただ走りながら思った。
そして兄弟にやられた死屍累々を、はほんの少しの哀れみの面持ちで見つめた。
そうして難なく人ごみを突破した4人は、ある部屋の前を通りかかった。
目ざといエドワードが足を止め、興味深そうに覗き込む。
そこがラジオ局のようなものだと知ると、「ほほーう・・・。」と言いながらにやりと笑った。
その隣りでも「ふーん・・・。」と笑っている。
「丁度よかった。私、あの教主に目に物見せてやりたいと思ってたのよね。」
「・・・やるか?」
「当然。」
そう言ってにやりと笑いあうエドワードとを見て、アルフォンスは深くため息をついたのだった。
***
「・・・というわけで、アル、よろしくね。」
「はーい。」
そう言ってロゼとともに部屋を出て行くアルフォンスを見送り、エドワードとは教主を迎える準備を始める。
「それにしても・・・相変わらず好きねぇ・・・こういうの。」
「んだよ・・・。お前だってノッてたじゃねぇか。」
「ま、ね。好きだし。あの教主嫌いだし。なんつーキメラ作るのよあいつ・・・。」
「・・・まだ根に持ってんのか・・・。」
「あたりまえでしょ?」
と憤慨するにエドワードはため息をつく。
「さてと・・・こんなもん?」
「だな。」
「よし、じゃあ教主のやつおびき寄せてくるわ。」
「ちょ、ちょっとまて!」
当たり前のように言って部屋を出て行こうとするをエドワードが慌てて呼び止める。
「ん? なによ?」
「なによ。じゃねーだろ!危ないから止めとけ。オレが行く。」
「いーって。任せときなさい。」
「相手は銃持ってんだぞ!?」
「天下一の逃げ足知らないわね!?」
「・・・・・・・・・・。」
そう言われて言葉に詰まる。
先ほどのキメラからの逃げっぷりを思い出す。
何より、以前からの逃げ足には定評があるのだ。
「・・・だからって、銃とキメラは違うだろ!?」
「まあまあまあ・・・。ここはおねーさんに任せなさいって。」
なおもいい募るエドワードをはどうどうと諌める。
しかし、エドワードもそれで納得するわけがない。
一緒に旅をしているが、は普通の女の子なのだ。
街でのんびりと暮らしているそこら辺の子と、何も変わらない。
自分たちと一緒に旅をしていなければ、危険な目になんてあわなくてもいい存在なのだ。
でも、危険な目に遭ってそれでも、はついてくると言った。
そのときから、絶対危険な目にあわせないと決めたのだ。
何があっても、守ると。
なのに、みすみす危険なところに行かせるわけにはいかない。
「駄目ったら、駄目だ!」
「むぅ・・・!じゃあじゃんけんしましょ!」
「・・・はぁ?」
「勝ったほうがおびき寄せにいく!じゃーんけーんぽい!」
いきなりのじゃんけんにも、エドワードの反射神経は有効だった。
思わず出してしまう。
がパー、エドワードがグー。
の勝ち・・・だった。
「はい、私の勝ち!じゃ、いってきまーす!」
「あ、おい!」
ぼーぜんとしたエドワードの隙をつき、は勢いよく飛び出していった。
(ごめんね・・・エド)
は走りながらそう思った。
エドワードの言いたいことも分かっている。
自分はエドワードたちのように満足に錬金術は使えないし、体術だってまだまだだ。
とりえと言えば、この足の速さだけなのだ。
あのとき、どんなに危険でも一緒についていくと決めた。
そのときから、自分にできることは精一杯やろうと決めたのだ。
自分の長所を、精一杯役立てようと誓ったのだ。
足手まといにも、役立たずにもなりたくないのだ。
(それに・・・)
あの教主に確かめたいことがある。
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***
こんなにのんびりやってていいのか自分・・・!
ここまで遅い連載もないだろうに・・・(涙)
やっぱりオリジナルなものを入れすぎたせいだろうか?でもやりたかったことだしなぁ〜。
それにしても相変わらず原作片手に読まないと分かりませんねぇ・・・。
ヒロインに過去を暴露するとか、ついていくと決意すると言うエピソードは、実は番外編でやる予定です。
もしよろしければそちらもどうぞ。・・・とは言ってもまだ書いてませんが(滝汗)