そこら辺から自分たちを探す声が聞こえてくる。
大勢の声が木霊する中、はやっと目的の人物の声と姿をキャッチした。
(さーて、どうしようかなぁ?)
廊下の角からこっそりと覗き見ながら、は思案した。
教主と話がしたいが、それには周りの連中が邪魔だ。
どうにかして、バラけさせることはできないだろうか・・・。
そう思っていると、都合よく連中が解散した。どうやら手分けして探すらしい。
教主が一人でこちらへやってくる。
(ラッキーーvv)
は小さくガッツポーズをとると、ゆっくりと教主の前に姿を現した。


「ん?なっ、お前は!!」

「どうも〜。」

「のこのこ現れるとはつくづくバカな小娘だな!」

「・・・。」


(てめぇに言われたかないわ!)
と内心暴言を吐いたが、表では笑顔を崩さない。
だてに、父の代理で外交関係を請け負ってたわけじゃないのだ。


「まぁまぁ、とりあえずその物騒な武器を収めてくださいませんか?私は戦いに来たわけじゃないんです。」

「なに?」

「ちょっとお話しをしようと思いまして。聞いてくださればあの国家錬金術師の元にお連れしますから。」


やっつけたいんでしょう?とにっこり笑うの言葉に、教主はしばし考え込む。
さっきからの様子だとこの娘に戦う能力はない。もしも持っていたとしても、自分にはこの賢者の石がある。
それに、あのにっくき小僧の下にも案内してくれるようだ。
こっちには有利な展開ではないか?
教主はにやりと笑った。
それに、いざと言うときは人質としても使える。と言う考えにも至ったのだ。
ゆっくりとマシンガンを杖に戻す。


「よかろう。話とやらを聞こうか。」

「まぁ、ありがとうございます。では早速・・・。」


兄弟が見たら「偽者だ・・・。」と思うような笑顔で礼を述べたは次の瞬間鋭い目つきになった。


「その石、どうやって手に入れました?」

「・・・なに?」

「その賢者の石、どこで手に入れたのですか?」

「・・・な、何を言うかと思えば・・・これは神が私に授けてくださった・・・。」

「そうですか。誰かからもらったんですか。」

「な・・・!」

「それは誰ですか?髪の長い女ですか?それとも短い?もしかして男ですか?」


絶句する教主にはまくし立てる。
教主の顔が驚きに染められる。


「・・・黒い服、着てませんでした?」

「まさか貴様・・・あいつらの仲間か!?」


叫ぶ教主に、は冷たい笑顔を向けた。
口の端を吊り上げただけの、貼り付けた微笑。
冷たく光る目は細められ、教主をひたと見据えている。
教主の顔色がさぁっと青くなり、動けない。
完全に、の冷たい雰囲気にのまれてしまっていた。


「結構。」


涼やかな声が響いた。
はくるりと後ろを向く。


「エドはこっちよ。ついてきて。」


そういい捨ててゆっくりと歩き出すと、しばらく固まっていた教主がついてくる。
信じられないと言うような視線が、自分をじっと見つめている。
完全な間抜け面だ。
今まで冷たい表情を作っていたは、打って変わって今は必死で笑いをこらえていた。





が、放送室までの道のりがあと半分と言うところまで来たとき、は我慢の限界が来た。


「ぷっ・・・あははははは!」

「!?」


いきなり腹を抱えて笑い出した娘に、教主は目を白黒させる。
目の端にたまった涙を拭きながらは教主に向き直った。


「あはは・・・ちょっとカマかけただけで大人しくなっちゃって・・・意外に小心者ね、教主サマ?」

「なにぃ!?」


実はの雰囲気にのまれてましたなんて、当人は知らない。
ちょっと顔を赤くして怒鳴る教主に、の笑いは留まる所を知らない。


「こんな三流が一国の主だなんて・・・!あはは・・・ちゃんちゃらおかしいわ!」

「なんだとぉ!?」

「あ、怒った?ごめんね〜、ほんとの事言っちゃって。」

「貴様〜!」


杖を振り上げた教主を見て、はすかさず走り出す。
その後ろを怒りと屈辱で顔を真っ赤にした教主が鬼のような形相で追いかけてくる。
それを適度にからかいながらは考えていた。

教主が持っているのは、誰かから渡されたものだろう。
それがどんな外見をしているのかは知らない。さっきのははったりだ。
だが、黒い服ということは、彼らが関係している可能性が高い。
父の日記に記されていた、彼らが。
でも、この教主からは有効な情報は入ってきそうもない。
こんなバカじゃ、たいしたことも教えられてないだろうし。
言い方は悪いが、捨て駒だろう。彼らにとっては。
そのことにちょっと哀れみを感じながら、エドの待つ放送室へ持ち前の逃げ足を使って疾走していった。





***





「おせーな・・・のやつ・・・。」


エドワードは扉の方向を見つめながら、待機していた。
すぐに来るだろうと思っていたもこなければ、自分たちを探しているであろう教団関係者の姿も見えない。
ヒマだ。
のやつは何してるんだ。
もしかして、捕まったなんてことはないだろうな・・・?
考えれば考えるほど、いてもたってもいられなくなる。
(あのとき、無理やりにでもここに残しときゃよかった・・・)
エドワードははぁ・・・と何度目かのため息をついた。

と、廊下からばたばたという走る音と、声が聞こえてきた。
だと直感する。
その勘は的中し、しばらくもしないうちに何を言っているのかはっきりしてきた。


「ほらほら、もうばてたの?だらしないわね、教主サマ!」

「情けないわよ〜!キリキリ走れ!」


(あいつ何やってんだ?)
応援してるんだかけなしてるんだか判断しづらい声をかけながら走ってくる。
そして、がほぼ息も切らさず、放送室に駆け込んできた。


「エドただいま〜!教主1名ご案内〜!」

「・・・なんかテンション高くねぇ?」

「そ?」


そう言いながら奥の壁にもたれ、机の上の何かのスイッチを手に取り、入れる。
そしてが手でOKサインを作ると同時に、激しく息を切らした教主が駆け込んできた。


「小娘〜!もう逃がさんぞ〜!」


これまでにないほど激昂している教主に、、お前何やったんだ?と聞きたくなる。
当のはにこにこと教主を眺めている。傍観者に徹する気だ。
教主はにっくき国家錬金術師を目にすると、怒りの矛先がエドワードに向かったようだ。
血走った目でエドワードを睨む。


「もうあきらめたら?あんたの嘘もどうせすぐ街中に広まるぜ?」


エドワードとしてはちょっとした警告のつもりだったのだろう。
が、疲れと怒りで思考回路がショートしている教主はその意味に気づかない。
自分の野望を実に饒舌にぺらぺら喋ってくれた。
それはもう、面白いくらいに。


「くっ・・・ぶはははは!」


最初に我慢できなくなったのはエドワードだった。
頭をぺしぺし叩きながら爆笑する。
その後ろでもつられたように笑っていた。


「!? なにがおかしい!!」


「だぁーーから、あんたは三流だっつーんだよ、このハゲ!」

「小僧、まだ言うか!」

。」

「ほいほい。」


呼ばれたは笑いをこらえながらエドワードに手の中のものを渡す。


「これ、なーんだ♪」


そう言ってエドワードが差し出したのは、スイッチだった。
放送するための。バッチリオンになっている。
つまり。


「貴様ぁーーーーーーッ!!」


街中のラジオと言うラジオから、ついでにアルが練成した巨大スピーカーから、これまでの話は街中の信者の皆さんにだだもれだったというわけだ。


ショックのあまりうろたえる教主を見て、目論見が成功したことを喜び、エドワードとはハイタッチをする。
それを見て怒りが頂点に達した教主は、また杖を武器に練成し始める。
が、エドワードのほうが早かった。
完成する前に、エドワードは右手を刃物に練成し、切り落としたのだ。


「言っただろ?格が違うってよ。」

「私は・・・私はあきらめんぞ・・・この石がある限り何度でも奇跡の業で・・・。」


そう言いつつまた武器を修復していく教主に、エドワードは舌打ちしていったん飛び退る。
が、突然バチイッという音がした。
練成途中だった教主の腕が、武器と合体し、むごいことになっている。
教主は痛みのあまり、腕を押さえて悲鳴を上げた。
突然のことに、エドワードもも呆然とする。
が、一足先に立ち直ったエドワードが泣き叫ぶ教主を頭突きで黙らせる。
教主の腕より賢者の石。
その無事を確認しようとするが・・・
肝心の賢者の石は、指輪からかつんとはずれ、さらさらと空気に溶けていった。


「壊れ・・・た・・・。」


偽物と言うことが発覚し、ショックを受けるエドワードと、助けてくれと懇願する教主。
(異様な光景だ・・・)
はひとりごちた。見事に会話が成り立ってない。
賢者の石が壊れたことを、は特に驚きもせずに見ていた。
偽物だと言うことはさっきの教主との話で見当がついていたし、偽物ならいつかは壊れる。
それがたまたま今だったと言うだけだ。
とはいえ、エドワードのショックぶりにはちょっと胸が痛む。
今まで幾度となく手がかりを掴んでは裏切られを繰り返していたのだ。
自分に出会う前も、出会った後も。
魂が抜けたようになっているエドワードの向こうで、教主がにやりと笑ったのが見えた。
は咄嗟にエドワードに知らせようと口を開きかけた。
が・・・


「おい、おっさんあんたよぉ・・・」


おどろおどろしい声がエドワードの口から漏れた。
気づかれたと思った教主がびくっとしてあとずさる。


「街の人間騙すわ俺たちを殺そうとするわ、しかもさんざ手間かけさせやがってその挙句が「石は偽者でした」だぁ?」


床に手をついていたエドワードの周りから練成反応が起こり、部屋全体が変形していく。


「お?・・・わわっ!」


は足場が不安定になり、慌ててエドワードの元に避難する。
自分の元いたところにガラスの破片が散乱するのを見て、ぞぞーっと背筋を凍らせた。
そうこうしているうちにも部屋はどんどん形を変え、その代わりにあるものが出来上がっていく。


「ざけんなよ、コラ!!」


出来上がったのは巨大なレト神像だった。


「神の鉄槌くらっとけ!!」


そうエドワードが言った瞬間、教主のほうへ像がゆっくりと倒れていった。
大きな音が響き、そこには気絶した教主とレト神像が残されていた。





***





「ハンパ物?」

「ああ、とんだ無駄足だ。」


事の次第をアルフォンスに話し終えたエドワードは、深いため息をつく。


「しょうがない。また次探すか・・・。」


そう言って立ち上がると、そこにロゼの声がかかった。


「そんな・・・うそよ・・・だって・・・生き返るって言ったもの・・・。」

「あきらめな、ロゼ。元から・・・。」

「・・・なんてことしてくれたのよ・・・。」


呆然としていたロゼの目から、涙がこぼれた。


「これからあたしは!何にすがって生きていけばいいのよ!!教えてよ!!・・・ねぇ!!」

「そんなこと自分で考えろ。」


悲痛な叫びに、エドワードの静かな声が返る。


「立って歩け。前へ進め。あんたには立派な足がついてるじゃないか。」


そう言ってエドワードはきびすをかえすと、振り返らずに歩いていってしまった。
は、それを見つめ、不意にロゼの横に立つ。


「ねぇ、ゆっくり周り見てごらんよ。」

「・・・え?」

「絶対、自分を支えてくれる人たちがいるよ。」


私は、そうだったから。と言い、ロゼに向かって笑うと、エドワードを追いかけて走り出した。
ロゼは、それを呆然と見送る。
そしてそっと、上を向いたのだった。





はエドワードたちと歩きながら、今日のことを思った。
結局、宗教なんて嘘で、亡くなった人が生き返ることはなかった。
それを当然だと思う反面、どこかがっかりしている自分がいる。
生き返るものなら、生き返って欲しかった。
ごめんと謝って、大好きと伝えたかった。できることなら、抱きしめて欲しかった。
・・・昔のように、笑いあいたかった。
本当に信じて生き返るのなら、私は信じただろう。
あの・・・ロゼのように。
でも、いくら願っても、一度失った命は、もう戻らないのだ。
どれほど信じ、祈り、切望しても・・・決して。
ふいに胸が苦しくなり、鼻の奥がつんとしたので、は勢いよく上を向いた。
泣きたくない。強くなると決めた。


?」


心配したアルフォンスがそっと呼びかけてくる。
それに笑って返すと、大きく伸びをした。


さて、頑張らないと・・・ね。





***





教会は信者で溢れていた。
が、それは教えを請うものではなく、弁明を請うものたちだ。


「あんな小僧に私の野望を・・・冗談じゃないぞ。」


変形した腕を押さえながら教主は呻く。
そこに、この場面には似つかわしくない、澄んだ女の声がかかった。


「ほーんと。せっかくいいところまでいったのに台無しだわ。」


教主がそちらのほうを見ると、髪の長い女と大きい子供のようなものがいる。
2人とも、の言うとおり、黒い服を着ていた。


「あんたたち、どういうことだ!」


と詰め寄る教主に、女は冷たく嘲笑する。
あざ笑うような言葉の数々に、教主はついに切れた。


「ぬああああ!!どいつもこいつも私を馬鹿に・・・!」


だが、そのセリフは女の行動で途切れた。
女の指が伸びたかと思うと、教主の頭を貫いたのだ。
成すすべなく倒れた教主を意にも介さず、今後のことを考え始める。


「さあ、次はどうしましょうかね・・・。」










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***
やっと終わったぁ!(快挙)
原作2話に5話も費やした私。(げふぅ!)
しかも1話1話が長い。これなんか最長記録です。読んでる方疲れませんか?またにわかアンケートでも実施しようかなぁ?

さて、次は炭鉱の町車上の戦い。
お付き合いくださいませ!