「あー風涼しー。」


がたんがたんと規則正しく揺れる汽車の窓から、目の前の草原を走り抜けてきた風が吹き込み、の頬をなでた。
それをは嬉しそうに目を細め、全身で受け止める。


「きれいな空気、爽やかな風、のどかな昼下がり。

・・・・・・・・・・それなのになんだと思う?この雰囲気。」


「うーん・・・。」


爽やかな笑顔からだんだん険悪な表情に変わっていくを横目で見つつ、アルフォンスは困ったように頭をかいた。
の視線の先には・・・


「おい!静かにしろ!」

「余計なことしようと思うなよ!」


などと銃を片手に叫び散らす、あからさまに怪しい2人組み。
『トレインジャック』
表面上は大人しくしている2人の脳裏には同じ言葉がよぎっていた。
このご時世、こんなことは日常茶飯事だ。
反乱分子が多い東部では特に。
だから、たちはもちろん、他の乗客もわが身を守る対処法は分かっていた。

“素直に、やつらのいうことを聞いて、大人しくしていること”

目立つことをしなければ、やつらは絡んでは来ない。
だから、目立ってはいけない。
いけないのに・・・


「・・・・・・この状況でよく寝てられんな、ガキ。」


(連れがやたら目立つ場合、どうすればいいんでしょう、神様・・・)


いつもは気配とかそんなものに敏感なはずのエドワードは、こんなに騒々しいにもかかわらずぐっすりと寝こけていた。
案の定ジャック犯の気に障ったようで、銃でつつきながら起こそうとする。
が、それでもまったく起きないエドワードに犯人A(命名)はついに切れた。


「・・・この、ちっとは人質らしくしねぇかこの・・・チビ!!」

((言った・・・!))


犯人Aが見事に最悪の地雷を踏んだことに、とアルフォンスは呆れ半分恨み半分の視線を送った。
大人しく寝かせておいてくれていたら、面倒にならなくてすんだというのに・・・。
この男、知らなかったとはいえ、何てことをしてくれたんだと、視線で訴えるも、気づくはずがない。
そして最悪の起こし方をされた当の本人は、くわっと目を見開き、地響きのような音を立てながらゆっくりと起き上がる。
今日のお目覚めは、最っ高に悪いらしい。当然だが。


「お?なんだ、文句あんのかおう!」


寝てたと思ったら今度は怒りをあらわにしているエドワードがやっぱり気に食わなかったらしい。
銃を突きつけながら脅す犯人Aに耳も貸さず、エドワードは突きつけられた銃を挟むように手を打ち鳴らす。
とたんに起こった練成反応に、驚いた犯人Aが「うおっ!?」と悲鳴を上げた。
らっぱのように変形させられてしまった元・銃に気をとられていた犯人Aの横っ面に、隙を見たエドワードが蹴りを食らわす。
たまらず犯人Aはその場に卒倒してしまった。

それを予想していた2人は、思わず手で顔を隠す。
心境はそろって、“あーあ、やっちゃった・・・”、だ。


一方仲間をあっという間にやられた犯人B(命名)は、仲間の仇(死んでないけど)に銃を向けた。


「やりやがったな小僧。逆らうものがいれば容赦するなと言われている。
こんなおチビさんを撃つのは気がひけるが・・・」

((こいつもかーーーーー!!))


またしても禁句を言い放った犯人B。
またしても言われてしまったエドワード(15)。
真っ青になった連れ2人。

これ以上兄にやらせてはいけないと感じたアルフォンスが、慌てて仲裁に入る。
が、それも無駄な努力だった。
制御不能、生きる暴走列車と化しているエドワードが止まるはずもなく。


「だぁれぇがぁミジンコどチビかーーーーー!!!」


折角割って入ったアルフォンスの配慮もむなしく、犯人Bはエドワードの手によってお花畑を垣間見ることになったのだった。


トレインジャックなどのトラブルに会った時の対処法。
犯人を刺激しないように、極力目立ったことは避けること。
でもこの場合・・・

(結果オーライってことにしてもいい・・・んだろうか・・・?)

一連の出来事に何も手を出さなかったは、手馴れた仕草で犯人たちを縛り上げていく兄弟を見やり、ため息をついた。
この兄弟といると飽きはしないが、同時にこんなことは日常茶飯事だ。
なんかそんな状況にも慣れてきたは、常識から外れていく自分に不安を感じるべきか、順応力あるね!と褒めようか、判断に苦しんだのだった。





***





「俺達の他に機関室に2人、一等車には将軍を人質に4人、一般客車の人質は数箇所に集めて6人で見張ってる。」

「・・・あとは?」


にーっこりと笑いながらこぶしを突き出すエドワード。
先ほどの恐怖が蘇ったのか顔を引きつらせながら必死に言い募る犯人B。


「本当にこれだけだ!!本当だって!!」

「・・・ほんとっぽいよ?エド。」


じーっと縛られた犯人Bの恐怖に引きつった顔を見つめながら言うに、あんまり近づくなと手で示しながらエドワードがうなづく。
犯人Bの供述に、その場にいた乗客がざわつく。


「まだ12人も!?」

「どうするんだ。やつらが報復にきたら・・・」


乗客の顔色が、不安と非難に変わる。


「誰かさんが大人しくしてれば穏便にすんだかもしれないのにねぇ?」

「ねぇ?ほんと、どっかの誰かさんが寝ぼけて暴れなきゃ・・・ねぇ・・・。」

「過去を悔やんでばかりでは前に進めないぞ、お前たち!」


はぁ〜っとわざとらしくため息をつくたちに流石に多少の罪悪感は感じるのか、エドワードがいやにわざとらしい大きな声で叫ぶ。


「・・・しょうがない。オレは上から、アルは下からでどうだ?」

「はいはい。」


どうやら責任を取って犯人たちを倒すつもりらしい。
いそいそと窓を開け始めるエドワードに、アルフォンスは呆れながら返事をする。


「ねぇエド、私は・・・「お前はお留守番」・・・はーい。」


手を上げながら言った言葉が言い終わらないうちに即答され、はすごすごと引き下がる。
確かにエドたちと一緒に行っても足手まといにしかならない。
でも、ちょっと面白くないのも事実だ。

(私これでも錬金術使えるんだけど・・・)

もちろん錬金術だけじゃダメだと言うことも分かるが、完全に足手まとい、お荷物同然の扱いをされると流石に腹が立つ。
む〜っとしながらエドを睨んでいると、乗客がおそるおそる話しかけてきた。


「き、君たちはいったい何者なんだ?」


「・・・錬金術師だ!!」


乗客の言葉に不敵な笑みを浮かべて言い放った後、エドワードは勢いよく窓の外に飛び出し・・・


「あ、エド、外は・・・

「うおおぉぉ!風圧!風圧!」

 風が強いよ・・・って言おうとしたんだけど、なんか手遅れって感じ?」

「先に言え〜〜!!」


・・・見事に飛ばされそうになっていた。
乗客一同、不安を感じたのは必然だろう。





***





それぞれ旅立っていった兄弟を見送り、はやれやれとため息をついた。
乗客も、不安は感じているだろうが、一応元の席へと戻っていく。
そんななか、突然高らかな笑い声が響いた。
何事かと、一斉に声のするほうを見る。
そこには、先ほどまでびくびく者だった犯人Bがいた。


「はーっはっはっは。馬鹿なガキどもだ。前のほうにしか仲間がいないと思い込んでやがる。」

「・・・どういうこと?」

「俺らの仲間はなぁ、後ろの車両にもいるってことだよ!残念だったなぁ・・・あが!」

「・・・なるほどね。・・・丁寧に説明してくれてどーも。」


犯人Bの後頭部を殴ったトランクを重そうに持ち上げながら、は小さく呟いた。
先ほどまで生き生きと笑っていた犯人Bは、哀れにも顔面から床に激突し、気を失ってしまっていた。
黙った犯人Bを横目でちらりと確認すると、はやれやれとトランクを元の場所に戻した。
犯人の言葉に、再び乗客が色めき立つ。


「おい、どうするんだ、あの子達がもし犯人を捕まえても、後ろの仲間が報復に来るんじゃないか!?」


ざわざわと広がる不安の声に、は小さくため息をついた。


「分かった。分かりました。それなら私が後ろの犯人たちをやっつけてきます。」


こうなったのも連れの暴走が原因だし。とため息混じりに付け加える
そんな見た目何の変哲もない無力な少女の宣言に、一瞬動きが凍りついた。


「・・・やっつけるって・・・君がか!?無理だ!ただの女の子にそんな・・・!」

「大丈夫です。ただの女の子じゃありませんから。」


心配して声をかけてくれる人ににっこりと笑って、はポケットからあるモノを取りだした。





「私も、錬金術師ですから。」










back top next

***
お待たせしましてごめんなさい・・・!

ユースウェル炭鉱すっ飛ばして車上の戦いへ。
次回錬金術ご披露です(笑)