どうしよう・・・
私は本を開いた状態のまま、一人考え込んでいた。
私の視界の端にはいつものように彼の姿。
近づけたと思っていたのに、今はとても遠く感じる。

あれから結局真偽を確かめることはできなかった。
怖かった。ただひたすらに、怖かった。
彼がここからいなくなるなんて・・・信じたくなかった。
もし彼の口から肯定されたら、一縷の望みも絶たれてしまう。
もしかしたら・・・なんて都合のいい未来が消えてしまう。
もしかしたら、旅はこれで終わりで、これからはここに住むとか。
馬鹿げた妄想だとは思うが、そうとでも思わなきゃ、今は自分を保てなかった。
怖い。苦しい。息の仕方を忘れてしまったよう。
心臓を鷲づかみにされたように締め付けられ、イタイ。





閉館の時間が来た。
音楽にせかされるように、各々帰り始める。
彼もいつものように本を借りて図書館を去っていった。
私はそれを、目を細めて見送る。


いつまで、この背中を見ることができるんだろう。





***





夜、いつものようにフィズから電話がかかってくる。


「やっほう。今日はどうだった?」


その能天気な声に、無性に腹が立った。
ぶっきらぼうな受け答えで早々に会話を終了させてしまう。
本当だったら、少し照れながら「今日一緒にお昼ご飯を食べたんだよ。」と報告できただろうに。

そのままご飯も食べずに自室に籠もり、ベッドに突っ伏す。
枕をぎゅっと抱きしめ、薄暗い月明かりの下、何もせずに丸まっていた。
寒くもないのに身体が震え、体中に力が入る。
彼がいなくなってしまうかもしれない―――でも、もしかしたらずっといてくれるかもしれない
もう会えないかもしれない―――まだ、まだ大丈夫。きっとまだ、大丈夫。

いつまで、大丈夫なの?

怖い・・・怖い怖い怖い!
私はぎゅっと痛いくらいに目を瞑った。
息が苦しくて、涙が滲んできた。私はそれを乱暴にぬぐう。
そして、顔を枕に押し付ける。
時々、雲で月の光が遮られ闇が訪れても、私はぴくりとも動かなかった。
心配した家族が様子を見に来ても、寝た振りをして拒絶する。
今は誰にも会いたくなかった。家族にも友達にも・・・彼にも。





どのくらい時間がたっただろう。階下からかすかに届いていた人の気配もなくなって久しい。
時間が止まっているような感覚。
でも、規則的な時計の音が無情に時が過ぎていくのを教える。
そのうち、少しずつ、少しずつ、深呼吸をして、荒れる心をなだめて、考える。

『私は、これから、どうしたい?』

確かめたい。はっきりさせたい。でも、怖い。
それでも、はっきりさせなきゃいけない・・・と、思う。。
ものすごく怖いけど、でも、今のままじゃいられない。
彼の口から直接聞いてしまうのも怖いけど、でもいついなくなるかもしれないと言う恐怖に耐えるよりはずっといい。

聞かなきゃ。彼の口から。

そう決心し、枕から顔を上げたのは、空が白み始めた頃だった。










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***
短っ!
閑話休題というやつです、多分。
失ってしまうかもしれないと言う恐怖と戦うヒロイン。
失いたくないと願っているのに、それは叶わないとどこか悟ってしまっている。
でもそれを認めたくなくて、必死に否定しようとする。
そんな気持ちが伝わっていれば、嬉しいです。