あれから、少しずつだけれど話す機会が増えてきた。
朝、いつものように図書館へ行く。
いつもの場所に行くと、いつものように彼がいる。
そこまでは、前と一緒の風景。
でも、
「よぉ。」
「・・・おはよう。」
いつものように本を読んでいた彼が、顔をあげ、私を見て笑った。
彼にとっては知り合いに挨拶をする程度にしか考えてないのかもしれない。
でも、私にとっては何よりも大きな変化だった。
いつも見ているだけだった彼が、自分のことを見てくれてる。
弟君にだけ向けられていた声で、自分に話しかけてくれる。
傍から見れば、ささいなことかもしれない。
たかがそんなことで。と笑うかもしれない。
それでも、そんな些細なことで、私の心は踊らされ、無意識に笑みが浮かんでしまうのだ。
この気持ちは、いったいなんなんだろう?
***
(分からん・・・)
私はいつものように本を読みながら、全く別のことを考えていた。
それすなわち、
(なんでこんなに緊張してんのよ〜)
だった。
その日もいつものように図書館に来て、最近日常になった彼と挨拶を交わして、いつものように本を読んでいるだけなのに。
傍目から見れば、全く変わらない風景なのに。
私の中は、いつもとはかけ離れていた。
例えて言うなら山で遭難してあたふたしている新米登山家。
どうしていいか分からなくて、パニクる頭を必死で働かせている感じ。
とりあえず目の前の本に集中しなくちゃと思いつつ、頭は別のことでいっぱい。
頭の中の議題はこうだ。
『この気持ちは、いったい何か』
最初に話をしたあの日から、どうも自分は落ち着かない。
順を追って振り返ってみよう。
自分が変わったところ。
・朝図書館に向かうのが、ひどく楽しみ。
・図書館に着くと、とたんにそわそわし始める。
・錬金術コーナーに近づくと、心臓がどきどきしてくる。
・彼の姿を見ると、なんか嬉しくなって無意識に笑顔になる。
・彼が顔を上げていつものように話しかけてくれると、とたんに緊張する。(そして受け答えが上手くいかない)
・所定の位置で本を広げても、今のように内容が頭に入らない。彼のことが気になって気になって集中できない。彼が本をめくる小さな音にさえなぜか反応してしまう。
・・・これが延々とこのごろ毎日続いているのだ。正直、疲れてきた。
いくら考えてもどうしてこんなになるのか分からない。
初対面の人だから・・・と言う理由はそろそろ通用しなくなっている。
男の子が苦手だからだろうか。
(・・・そうなのかもな)
と納得してみる。
でも、なんとなく違う気がして、それと決め付けることができない。
(なんなんだよ〜)
いくら考えても納得のいく答えが出ないことに、私はそろそろ音を上げ始めていた。
堂々巡りだ。これじゃ、いつまで経っても答えなんて出ない。
(あ、そういえば・・・)
と私の脳裏に、彼女たちの姿が過ぎった。
そうだ、こんなときこそ、彼女たちの意見を聞いてみよう。
私はそう決心すると、妙にすっきりして、手に持った本に視線を落とした。
今度はすこしだけ、集中することができた。
日常が最近崩れっぱなしなのに、そのせいで気疲れしているのに、不快ではなかった。
でも、その理由だけが、私の心によどみを残していた。
この気持ちは、なんですか?
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***
ヒロイン苦悩する編(笑)
次回、またオリキャラ出てきます。ご勘弁を。