「恋ね。」

「恋ぃ?」


訝しげな私の声に、フィズは大きく頷いた。





***





ここはフィズの家。
昨日家に帰ってから電話で緊急招集をかけ、今に至る。
彼女たちは、私の小さい頃からの友人だ。
私より大人びていて恋愛経験豊富。
相談相手にはもってこいだった。

どうしてこんな行動を取るのか。
この気持ちはいったいなんなのか。
私の我侭にいやな顔一つせず集まってくれた彼女たちに、今までの経緯をぶちまけた。
話し終わって一息ついた私に、あっさりと告げられたのがさっきの言葉だ。


「そう、恋。はその子に恋しちゃったのよ!」

「うんうん。良かったわね、!遅めの春がやってきたのよ!!」

「うっさいわ!遅めとか言うな!・・・それにしても、恋・・・ねぇ。」


勝手にはしゃぎだした彼女たちを呆れたように見ながら、さっきの言葉を反芻していた。
恋。
よりにもよって、恋。
私はなぜか納得できかねていた。

もう一人の友人、レスタが言ったように、私は今まで恋とは無縁の生活をしてきた。
花より団子。恋より本。男より友人。
2人に何度か「彼氏作らないの?」と聞かれても、いつも私は「彼氏に時間を割くより、趣味に時間を割くほうがいい。」と言って突っぱねていた私が。
親からも「彼氏の一人くらい作りなさいよ。」と心配されていた私が。







正直、ありえないと思った。
そんな桃色の思考回路なんて、自分にはないんだと思っていたから。
恋する自分なんて、想像もできなかったから。
そんな私に、ついに恋がやってきたとでもいうのか。


「よかったじゃない、!で?」

「で?って?」


難しい顔をした私に、満面の笑みをしたフィズが私の肩に手を置きながら脈絡なく尋ねてきた。
私はその意味を掴みあぐねて、首をかしげる。

「告白、しないの?」

「こ、告白ぅ!?」


にっこりとしながら言われた言葉に、私は度肝を抜かれた。
こ、告白?


「しない!」

「え〜・・・しないの?」

「しない!!」


不満げに口を尖らすフィズの手を、少し乱暴に振り払った。
「あ、照れてるかわいー。」とのん気に呟くレスタに「やかましい!」と返し、目の前のフィズを睨みすえた。
当のフィズはにこにこと笑っている。


「まったく、いきなり何てこと言うの!」

「だって・・・ねぇ?」


フィズが意味ありげにレスタに向かって目配せをする。それを受けたレスタも「ねぇ?」と返していた。
なんなんだいったい。


「とにかく!私はまだ自分が恋したって認めたわけじゃない!」

「「・・・はい?」」


それまで不敵な笑みを崩さなかった2人が、一斉にきょとんとした顔をする。


「え・・・どゆこと??」

「私は、まだ自分が恋したって認めてないって言ったのよ。」

「なんでよ!そこまで自分の変化を自覚してるのになんで恋だって認めないのよ!」

「じゃあ言わせてもらいますけどね、好きと恋の境界線って何よ。」

「「・・・へ?」」


私の問いかけに、彼女たちはぽかんと私を見つめた。


「どこまでが普通の好きで、どこからが恋としての好きなの。」


憤然と言い放った私の言葉に、彼女たちは一斉に困った顔をする。


、人を好きになるのに、理屈なんてないのよ?」

「でも2人は私の話を聞いて恋だって判断したんでしょ?ならどこかに判断基準があるはずじゃない。」

「そんなこと言われても・・・」


心底困ったと言うように、2人は顔を見合わせる。
2人を困らせたいわけじゃなかったけど、なんとなくで納得したくなかった。
恋愛に偏見があるわけじゃない。
人の気持ちは定規ではかれるものじゃないことだって、分かってはいる。
でも、
自分は恋してるんだっていう、確かな証拠が欲しい。
彼に恋していると確信できる自分が欲しかった。
でも、心底困り果てている彼女たちを見るのも、気がひけてくる。


「・・・ごめん。質問変更。2人は、自分がどんなときに、恋だって思う?」

「え?」

「その人と知り合って、どんな風に思ったとき、自分がその人に恋をしているって気づいた?」

「「・・・・・・・・・・・・。」」


私の言葉に、2人は視線をさまよわせながら必死に思い出そうとしてくれているようだった。
どんな間抜けで突拍子のない質問にも、真剣に考えてくれる。
そんな2人に、いいようのない感謝を覚えた。
自分は、ステキな友達を持てたことを、神様に感謝したくなった。


「私は・・・。」


と、先に口を開いたのはフィズだった。


「私は、みたいにその人のことが無性に気になったり、ちょっとのことでもどきどきするようになったら、恋だと思ってる。」


そう言って、彼女はちょっと恥ずかしそうに笑った。


「私もよくわかんないよ。でもさ、話しかけられたりするだけで妙に緊張してどきどきしたりとか、いつの間にか彼のことを考えてたりとか、無意識に目で追ってたりしたら、恋・・・なんだと思う。」

「そっか・・・。」

「ん〜・・・私は・・・。」


黙って聞いていたレスタも、天井を見上げながら呟いた。


「その人が他の誰かと喋ってるときに、嫉妬したりしたら、もう恋なんだと思う。」

「嫉妬?」

「そ。自分以外の人とその人が仲よさげに話してると、何となく胸がもやもやするっていうかむかむかするって言うか・・・とにかく機嫌が悪くなるの。自分以外の人と話さないで!とか思ったりもするかな。」

「そんな・・・誰とも話しちゃ駄目なんて・・・。」

「理不尽で身勝手な気持ちだと思うけどさ。分かってるけど、そう思っちゃうんだよ。好きな相手には。だってさ、友達だったら「あぁ、あの子とも仲がいいんだな。」くらいにしか思わないじゃない?でもさ、好きな相手だと妙な独占欲があるんだよね。」

「なるほど・・・。」


フィズとレスタの答えに、私は自分と当てはめてみた。
無性に気になってはいる。間違いなく。でも、それは好奇心故なのかもしれないと、冷静な自分が指摘する。
話しかけられたりすると確かに緊張する。挨拶だけでも緊張する徹底振りだ。でも、それは私に男の子への免疫がないからなのかもしれない。とも思う。
彼がよく弟君と話しているのを見かけるが、別段むかむかしたり「話さないで!」とか思ったりはしない・・・と思う。

全部当てはまっているような気もする。でも、頭のどこかでまだ恋だと決め付けるには早いと言う声もする。
どっちだろう。私は、彼の事をどう思ってるんだろう。


「でもさ〜、やっぱり嬉しいよね。」


考え込んでいた私の耳に、フィズのそんな言葉が聞こえてきた。


「そうそう。彼の姿を見つけたときとか、話しかけてくれたときとか。視線が合ったりしただけでも、嬉しい。」

「そうそう!なんか自分に向けてしてくれる動作や表情が嬉しいよね。」


(嬉しい・・・)
私はその言葉が気になった。
いつものあの場所に彼の姿があると嬉しい。
話しかけてくれたりとかするだけでも嬉しい。
会話ができればもっと嬉しい。
ふとした瞬間に視線が合ったり、そのときに見せるちょっとした笑顔を見るだけで、幸せな気分になれる。
自分に向けられるものならば、視線でも、たった一言の挨拶でも、なんだって嬉しい。
もし、これが恋ということならば・・・





(私は、彼の事が好きなの・・・?)





たどり着いた答えは、心に大きな波紋を作り、そしてゆっくり溶け込んでいった。










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またオリキャラ出してすみませ・・・(滝汗)
とりあえず、ヒロイン自覚編。
こういうときこそ、女友達に頼ってしまうのです。