私は、彼に恋をしました。

・・・とは言っても、あまり自覚する前と変わらない。
本を広げながら、頭の中は相変わらず彼のことでいっぱいで。
変な緊張も取れはしなくて。
ただ、この全ての原因が「恋」だと分かっただけで。
変な気持ちに「恋」という名前がついただけで。

(もうどうすりゃいいのよ・・・)
私は相変わらず自分にほとほと手を焼いていた。





***





「よ。頑張ってんな。」

「へ?」


自分の考えに没頭していると、ふっと目の前に影がさした。
と同時に声。
心臓が痛いくらいに高鳴った。
彼の声だ。しかも、自分の真上から。
(ななな・・・なんでぇ!?)
パニックになりながらも慌てて顔を上げると、にかっと笑った彼の顔が見える。
なんか無意識に顔が火照ってきたような気がする。
(いやああぁぁ!勝手に赤くなんないでよ〜〜〜〜!!)
私は少しでも熱くなった顔を冷まそうと、顔をぶんぶんと振ってみた。
彼は突然勢いよく首を降り始めた私に、ぎょっとしたようだ。
そして自分が悪かったと思ったのか、おろおろと謝ってきた。


「わ・・・わりぃ。そんなに驚くと思わなかったから・・・。」

「え?あ、いやいや、ち、違いますから。全くあなたは悪くありませんので!こちらこそ、あの、すいません。」

「い、いや、オレは別に・・・。」


傍から見れば何やってんだこいつらって感じだろう。
それくらいお互いにいろんな意味でパニクっていた。
少ししーんとした後、2人揃って吹き出す。
何となく自分たちがこっけいで、笑いがこみ上げてきたのだ。
そのまま、2人揃ってくすくすと小さく笑いあった。
一応ここは図書館で、静粛にすべき場だったからだ。
おそらく、ここじゃなかったら、声を上げて笑っていただろう。


「はぁ、おかしい。すみませんでした。ちょっと驚いただけなので。」

「そっか。ならよかった。」


俺なんかしたのかと思った。とまだ先ほどの笑いが抜けきらない顔で、彼が言った。
不思議。
今まであんなに緊張していたのに、今は笑って話せている。
相変わらず心臓はどきどきしているが、変な緊張は、今はない。
今はただ楽しかった。


「でも、どうしたんですか?今日は脚立占拠してませんけど。」

「ん?あぁ、なんとなく・・・かな。本から顔を上げたら、なんか難しそうな顔してたからさ。」


分からなくて悩んでるのかと思って。と彼は少し意地が悪そうな笑顔を見せた。


「なんなら教えてやろうか?同じ錬金術を学ぶ仲として、協力してやるぞ?」

「残念でした。今のところ順調です。」


負けてなるものかと思って、こちらも余裕の笑みを浮かべて言い放つ。
その言葉に、彼は意地悪な笑顔はそのままに、「なんだ、つまんねーの。」と返す。
ただこれだけのやりとりで、私はいいようのない高揚感に包まれていた。
冗談を言って笑い会える仲になった。という事実がとても嬉しい。
少し・・・いやだいぶ、彼との距離が縮まった気がした。


「じゃ、俺はまた読書に戻るかな。」


そう言ってかがめていた腰をうんと伸ばすと、「じゃーな。」と言って踵をかえした。
会話の終了を感じ取り、今まで高揚していた気分が一転した。
行ってしまう。
とたんに寂しくなり、心細くなった。
もっと話したいのに。もっと、声や表情を見ていたいのに。
何か声をかけろと、私の中の誰かが焦らせる。
その声に後押しされるまま、ろくに考えてもいないのに、声をかけてしまった。


「あの!」

「ん?」


足をぴたりと止めて、彼は顔だけ不思議そうに私のほうへ向けた。
やった成功!と一瞬喜んだが、勢いだけで声をかけてしまい、後が続かない。
そのまま黙り込んでしまった私をいぶかしんで、彼は身体ごとこちらに向き直った。
その行動が焦りに拍車をかける。
何か言わなきゃ。
何でもいい、彼を呼び止めた理由を言わなければ。
でも、「何となく呼び止めました。」なんて口が裂けてもいえない。
焦れば焦るほど、言葉がまとまらない。そしてまた焦る。


「なんだよ。やっぱり分からないのか?」


黙ったままあたふたしている様子に痺れを切らしたのか、そう問いかけてくる。


「いや、今はいいんだけど!」

「だけど?」


なんだよ?と言いたげに首をかしげる様を見ながら、私は必死にまとまらない頭で言葉をひねり出した。


「もし分からないところが出たら、教えてくれますか!」


ぶり返してきた緊張のあまり思ったより力が入り、声が大きくなってしまった。
声の大きさにか、言われたことに驚いてるのか分からないが、目を見開いている彼に、恐縮して小さくなって消えたい衝動に駆られる。
自分の言ったことに後悔しはじめていると、固まっていた彼がふっと微笑んだ。


「おう。いつでも聞きに来いよ。」


そのさっきとは違った柔らかな笑みに、一瞬目を奪われた。
驚いた。あんな柔らかい笑みなんて、はじめて見た。
ほえ〜っと夢見心地のまま、「んじゃーな。」と言われたのに「うん。」とだけ返して、形ばかり本を読む体制をとった。
だが、心臓がまだどきどきしていて、しばらくの間活字を追うことすらできそうにない。
(あんな笑顔・・・反則だぁぁぁ・・・)





彼を見るたび、話すたび、とても嬉しくはなるけれど・・・心臓が、持ちそうにないと思った。










next top back

***
桃色万歳(笑)
ヒロイン初々しさ炸裂。
ってかエド激しく偽物・・・!うあ〜すみません!!