名前を知っても、それを使うことは出来ない。
だって彼は私が名前を知っていることを知らないのだから。
逆に、彼は私の名前を知るはずもない。
一方通行の想い。
当たり前だと分かっているのに、なぜかそれが哀しかった。
***
(欲張りだよなぁ・・・)
私は手に持った本を見つめながら呟いた。
恋を自覚してから、私は少し欲張りになったと思う。
彼のことをもっと知りたいと思ったり、名前だけじゃ飽き足りなくなったり。
彼にも私を想って欲しいと願ってしまったり。
欲求や願いはあとからあとから湧いてきて、決して消えることがない。
もっと知りたい。
もっと話したい。
もっと、近しい存在になりたい。
願いは想いを募らせるのに、決して行動には反映されない。
彼のことを知りたいのなら、彼から直接聞けばいい。
彼ともっと話したいのなら、自分から話しかければいい。
もっと近しい存在になりたいのなら、自分から近づいていけばいい。
頭では分かっているのに、心のどこかがブレーキをかける。
あれこれと理由をつけて、結局自分は身動きできないままだ。
***
その日は、よく晴れた日曜日だった。
「え〜!?どうしてよ!」
突然母から告げられた言葉に、私は不満を隠せなかった。
母さんが急に今日になって言い出したのだ。
いわく、
「天気がいいから、ちょっとピクニックに行ってくるわvv」
ピクニックに行くのはいい。今日はいい天気だし、あったかいし、絶好の日和だと想う。
でも彼女は
「だから、お昼ご飯は悪いけどよそで食べてね。お勉強頑張って!」
と続けたのだ。それも満面の笑みで。
私は今までお昼になるとご飯を食べに一時帰宅していた。
図書館は比較的家から近かったし、そのほうがお金もかからないのだ。
が、今はそんなことどうでもいい。
自分だけのけ者。
問答無用で図書館行き。
これには納得がいかない。
「どうして私だけ勉強なの!ここは家族水入らずで行くべきでしょう!?」
「え〜でも、最近毎日のように図書館行ってるから・・・もう少しで休みも終わりでしょう?今のうちに勉強しておきたいのかと思って・・・。」
「・・・。」
そんなわけないじゃない!と言い返したかった。
でも、彼に会えないのはちょっとばかり寂しい。
今日一日くらい行かなくたって・・・とも思うが、母さんの言うとおり休みもそろそろ終わりに近づいている。
学校が始まれば図書館にいける機会はめっきり減るし、彼とも会えなくなる。
今のうちに、少しでも多く会っておきたい。なぜか少し追い詰められたような思考の中、そう思った。
「・・・分かった。いってらっしゃい。楽しんできてね。」
ピクニックも捨てがたかったが、軍配は彼に傾いた。
ここまで、依存しているんだなと思う。
毎日会うのが日常となっているのに、もし学校が始まって週に1,2回とかになってしまったら、耐えられるだろうか。
それが当たり前となるのに、どれくらいかかるだろうか。
・・・きっと、長くかかるんだろうと思う。
そう直感した自分に苦笑する。
本当に、彼なしの日常(いつも)なんて今は考えられない。
***
そしていつものように図書館へ行き、いつものように本を読んだ。
今日から実践編を読み始めたからか、いつもより本に集中できた。
そんなこんなで、お昼の時間がやってきた。
同じ姿勢で読み続けていたせいか、固まった身体を伸ばし、私は立ち上がった。
ここの図書館には、一日中入り浸る人用に、軽食を取れるカフェテリアがある。
近いし、お手ごろだしそこでいいやと思い、足を向けた。
「う〜ん・・・どれにしようかな。」
入り口近くのメニュー表を覗き込みながら、私は考え込んでいた。
よく考えれば外食は久しぶりだ。何か、最近食べてないものを食べてみよう。
そう思いながら何度もメニューを読み返していると、
「あれ、きてたのか。」
そういう声とともに、誰かがこちらに向かってくる足音が聞こえた。
「え・・・?」
と半ば信じられないと言うように振り向くと、毎朝のようにちょっと笑いながら「よっ。」と片手を上げている彼の姿があった。
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***
中途半端に次回へ。
いや、長くなりそうなのでここでいったん切っただけです。ごめんなさい。
何気にちょっと思ったこと。
これ、なんかのろけてるだけじゃないか・・・?