まさか本当に会えるとは思わなかったと彼は言った。

きっと会えると思ってましたと言ったら、彼は驚いたような顔をしていた。

私はそれが嬉しくて、視線を外して笑った。
会えたこと。今こうして話せていること。こうして反応が返ってくること。
それがどうしようもなく嬉しくて、泣きたくなるほど安心した。




***





図書館からの帰り道、偶然にも一緒に歩いた道すがら、私はいろんな話をした。
といっても、それは実際短い時間だったけれど。
あの頃と変わらず、私が一方的に話しているだけだったけれど、彼は楽しそうに聞いてくれた。
今は町を離れてここで暮らしていること、学校に通っていること、それは、錬金術の学校であること―――
私がまだ錬金術を続けていると聞いて、彼は驚いたように目を丸くした後、嬉しそうに笑った。
笑って、「そっか。」と満足そうに呟いた。
私は、“あぁ、これが見たかったんだ”と思った。
もう一度満足そうな、嬉しそうな顔が見たくて、喜んでくれるのが嬉しくて、私は今まで錬金術を続けてこられたんだと思った。
こんな理由は他の人から見れば不純なのかもしれない。でも、きっと悪くはない。

私はそんな満ち足りた思いを胸に、夕焼けに照らされた道を歩いた。





***





「じゃ、俺はここで。」

「あ、はい。」


私たちが立ち止まったのは、住宅街に指しかかろうかというところだった。
少し前を歩いていた彼が、くるりとこちらに向き直る。
少しだけこちらをじっと見つめると、少し笑って「じゃあな。」と言った。
その様子に、言いようもない不安が押し寄せてきた。
ふと、あの最後の夜の場景が脳裏をよぎる。重なる。そして思う。


もう、会えないかもしれない。

せっかく、会えたのに?





―――そんなのは、嫌だった。


「あの!」

「・・・ん?」


じっと黙っていた私が勢いよく顔を上げたので、彼は少し驚いた様子だったが、すぐに不思議そうに首をかしげた。
優しそうなその仕草に、私は懐かしさと同時に胸が苦しいほどの不安が蘇ってくる。
4年前のあの日、最後に会ったときも、こんな道の角で、彼は優しくて・・・。
また行ってしまうのかもしれない。だって、あの時は旅立ってしまったから。
どんなに願っても、あの日を最後に、もう会えなくなってしまったから。
あのときのようにまた会えなくなってしまうことが、胸が張り裂けそうなほどに辛い。
会えたのに、やっと会えたのに、すぐに別れてしまうなんて、悲しすぎる。


「また・・・また会えますか!?」


これっきりになんてなりたくない。まだ・・・まだ話していないことがいっぱいある。話したいことが、いっぱいあるのに。


「もう一度・・・もう一度だけでいいんです。もう一度・・・だけ・・・。」


(あなたが旅をしているのは分かってます。その目的があるのも分かってます。でも・・・でもどうか・・・もう一度だけ・・・っ!)

そう願って、私は頭を下げた。ぎゅっと目をつぶって、答えを待つ。
それは1時間にも感じた。実際は数秒のことなんだろうけど。
それだけ、私が必死だったんだろうと思う。それだけ、離れたくなかったんだと思う。
やっと、出会えた人だから。ずっと、思い続けた人だから。

これで終わりになんて、したくなかった。


「また・・・。」

「え?」


聞こえた声に、私が咄嗟に顔を上げると、あさっての方向を見ている彼。
その顔は、もうほとんど沈んでしまった夕日の最後の残り日に照らされていて。





「またあのときみたいに、図書館通いでもすっかな。」





頭をかきながらそう呟かれた言葉に、私は一瞬言葉を失う。彼は今、なんと言ってくれたのだろう。
そして意味を理解した次の瞬間、私は思わず満面の笑みを浮かべた。
嬉しさが隠し切れない。ここまで舞い上がってしまうのは滑稽だと、頭では分かっているのに。
頬が勝手に緩んでしまう。


「私も、学校帰りに毎日寄ろうか・・・な?」


そう言って少し顔をうかがって見ると、満足げに笑った彼が、こちらを見て「おう」と言うのが見えた。
顔が赤く見えるのは、この夕日のせいだろうか。


「じゃあな。」

「はい、また。」


“また―――”
そう確信を持っていえることが、こんなに嬉しいことだったなんて・・・。
後ろ手に手を振る彼を見えなくなるまで見送って、私は帰途についた。
緩みきった頬は、まだしばらく元に戻る気配はなさそうだ。
明日が早くこればいいのに・・・。
今日の夕方のことを思い出して、私はふふっと笑った。










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***
に、偽者・・・。