は次の日、いつものように図書館で本を広げていた。
が、いつまで経ってもページは進まない。
それもそのはず。
はあれから気になって気になって、ろくに眠れなかったのだ。
そのせいかいらいらと机を人差し指で叩いている。
(まったく、なんだったのよあいつは・・・)
いきなり窓から侵入してきたかと思えば、話したいとか言うふざけたことをのたまい、そしてさっさと退散してしまった・・・たしかクラウドとかいったか。
(いったいなんなのよ・・・)
はぁ・・・とはため息をついた。
あれから一晩中過去に出会った人物を思い出していた。
あいつは初対面だといったが、信用できない。
なんせ、あいつは自分の名前を知っていたのだ。あのとき名乗っていないにも関わらず。
それなのに、全く記憶からは出てこない。
(あれだけ美形ならきっと覚えてるはずなんだけどなぁ・・・)
自分も一応乙女だし。と考えて、いけないと首を振る。
確かに顔はいいが、それは認めるが、性格が最悪だ。
非常識極まりないやつにときめくな自分!!と自分を叱咤する。
しかし、頭の片隅が微妙に浮き立っているのを感じ、は頭を抱えた。
(うあ〜気になる〜なんだったのよいったい〜・・・)
今度は机に突っ伏し、う〜と唸る。
その一部始終を、兄弟は遠巻きに見ていた。
「どうしたんだろう?」
「・・・さぁ?」
「なんかボーっとしてたかと思えば、頭抱えて、今度は突っ伏して唸って・・・何かあったのかなぁ?」
「さて、どーだろうな。」
「あ、兄さん冷たい。」
「あいつの挙動不審は今に始まったことじゃない。」
「それは・・・そうかもしれないけどさ・・・。」
不満そうに呟くアルフォンスをちらりと見、そしてを見ながら、エドワードはぽつりと呟いた。
「しばらく、様子を見ようぜ。・・・言いたくないことなら、無理になんて聞き出せねぇしな。」
「・・・・・・・・・・・うん・・・。」
そう会話を終了させると、兄弟はまた各々の本に目を落とした。
このとき、もし兄弟がに話しかけていたら・・・彼の存在を知っていたなら・・・物語は、変わったのかもしれない。
少なくとも、最悪の事態は避けられたはずだったのだ。
***
−−−−夜。
が部屋で本を読んでいると、かたんと音がした。
はぎくりと顔を強張らせる。
今の音は・・・まさか?
こつこつ
嫌〜な予感が確信に変わった。
ばっと勢いよく窓のほうを向く。
そこには、昨日と同じように青年・・・クラウドがいた。
(ひぃ!出たぁ!!)
の顔から血の気が引く。
当の本人はにこにこと笑ってのん気に手なんぞ振っているが。
「やあ、。こんばんわ。」
「帰れ。」
にこやかな挨拶に、は冷たく応える。
それでも、くじけるようなやつじゃないことは承知済みだ。
その証拠に、昨日と同じようにかちゃかちゃという音が聞こえた。
が、もバカじゃない。
窓を開かなくするくらいわけない。
実は事前に夕方に板で窓を固定しておいたのだ。
クラウドも首尾よく開かない窓との余裕の笑みに全てを悟ったらしい。
納得したようにふむふむと頷くと、ふいに自分が着ていた黒いコートを脱ぎ始めた。
それを、おもむろに自分の手にかける。
まるで、護送される容疑者のような格好だ。
が不思議そうに見つめる先で、バチバチッと閃光が走った。
は驚きに目を見張る。
練成反応・・・だ。
(そうか、わざわざコートをかけたのは光が目立たないようにか・・・)
が思わず納得していると、練成しなおされた窓が開いた。
そこでやっとは自分の作戦失敗に気づいた。
「あ゛〜〜〜!!」
「残念だったね。こんばんわ、。」
思わず絶叫するに、クラウドはにこやかな笑顔で挨拶したのだった。
その頃の兄弟は・・・
「・・・ねぇ、兄さん。今何か聞こえなかった?」
「いや、何も?」
「そっか・・・気のせいかなぁ?」
「そうなんじゃねーの?もう夜中だぜ?」
「そうだねぇ・・・こんな夜中に誰も叫ばないよねぇ〜。」
実はが隣の部屋で叫んでいたりするのだが、意外とここの宿は壁が厚かった。
***
「・・・でてけ。」
「どうして?」
「いいからでてけ。」
「だからどうしてさ?」
「どうしてもよ!いい加減出てかないと大声出すわよ。隣りに私の知り合いがいるんだから。」
「でも、さっき叫んでたじゃない。でも来る気配ないよ?」
「う・・・。じゃ、じゃあ呼びに行ってやるわ。」
「ボクがみすみすそれを見逃すとでも?」
にっこりした笑顔なのに、なんでこんなに迫力があるんだ・・・。
(くそう。これだから美形は・・・)
悔しい・・・とは手を振るわせた。
「・・・なにが目的なの。」
「何がって?」
「なんで私の部屋に来るの?」
「言ったでしょ?僕は君と話がしたいんだ。」
「話し相手が欲しいなら私じゃなくてもいいじゃない。」
「君じゃなきゃ駄目なんだ。じゃなきゃ・・・ね。」
「・・・どういう意味?」
「いずれ分かるよ。」
くすりと笑ったクラウドに、不信を隠さずに睨みつける。
「そう怒らないでよ。僕は君の味方だよ。」
「信用できない。」
はきっぱりと切り捨てる。
「いきなり窓から不法侵入してくる人をどうして信用できるの?名乗った覚えもないのに私の名前を知っている人をどうして味方だと思えるのよ!?ふざけるのもいい加減にして!!」
そう叫ぶとキッとクラウドを睨みつける。
その視線を受けて、クラウドは苦笑した。
しょうがないなぁ・・・とでも言いたげな笑み。
ますます腹が立つ。
「そんなに僕が信用できない?」
「できない!!」
「そっか。」
そういうと肩をすくめた。
ひょうひょうとしたその仕草が、無性に腹立たしい。
「じゃあ信用してもらうしかないね。」
「・・・はぁ?」
「僕はここに宣言するよ。」
「・・・何を?」
「毎日欠かさずここに来る・・・ってね。」
「はぁ!?ちょ・・・なに言って・・・!?」
「それが守れたら僕のこと信じてくれるよね?」
「信じるも何もここにくんなって・・・あ、ちょっと・・・!」
そういうが早く、クラウドの姿はどこにもなかった。
そこには空しくカーテンがはためいているだけだ。
「・・・冗談でしょ?」
は呆然と呟いた。
毎日来る?・・・やつが?
(冗談じゃない!!)
どうにかして・・・どうにかしてやつの来訪を阻止しなければ!
「あーもう、いったい・・・なんなのよ〜〜〜〜!!」
の叫びは空しく部屋に響いて消えた。
そして今夜も、の眠れない夜になった。
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***
クラウドはひょうひょうとした人物です。ヒロイン振り回されてます。
これからもどんどん振り回される予定です。