タッカー邸へと向かう途中、大佐が読み上げる情報を、エドワードは窓の向こうをボーっと見ながら聞いていた。
それを心配そうに見守るアルフォンスと、呆れたようにちらりと見る大佐。
の姿は、そこにはなかった。
***
「本当について行かなくてよかったの?」
「・・・はい。」
手渡されたカップをお礼を言いながら受け取り、は小さく頷いた。
意気消沈したの様子を、中尉は心配そうに見守る。
その視線を受けながら、は呟いた。
「・・・分かってるんです。エドの言いたいことも、分かるんです。」
分かってる。
エドが私のことを思って言ってくれているんだと言うことも、分かってる。
「以前、私がすっごい無茶をして、怪我したことがあるんです。」
あれは、まだ旅に出て間もない頃。
エドたちを守りたくて、守られるだけじゃ嫌で、いてもたってもいられなくて。
覚えたての錬金術を駆使して、がむしゃらに戦った。
「そうしたらエドが、ものすごい剣幕で怒って・・・。」
今でも鮮明に覚えている。
ともすれば手をあげてしまいそうになる自分の手を必死で押さえて、怒りに燃え上がった目で私を睨んでいたエド。
散々私を怒鳴りつけた挙句、泣きそうな顔と掠れた声で小さく「よかった」と呟いてくれた。
あの時感じた彼の優しさと、自分への戒めは、今もまだ忘れてはいない。
そのとき、私はたくさんのことを、自分に約束させたのだから。
「でも、私だって役に立ちたい。たくさん迷惑をかけているから、少しでもそれに報いたい・・・!」
震える手でカップを握り締め、は言葉を搾り出した。
言いたいのに、言えない言葉。
私が役に立ちたいと言ったら、きっと彼はそんなことしなくていいと言うだろう。
たくさん迷惑をかけていると言ったら、そんなことはないと言うだろう。
分かっているから言い出せない。
でも、その言葉は紛れもなく自分のなかの真実の気持ちで。
分かってもらえないことが、どうしようもなく悲しい。
「守られるだけは・・・嫌なんです!」
いつもいつも思う。
自分は足手まといだと。
例えこれをエドたちが否定しても、自分自身が許さない。
守られるだけにはなりたくない。
でも、守れるだけの力もない。
それならせめて、少しでも力になれたら。
それなのに、そう思ってはいるのに、私は何もしてあげられてない。まだ、何も。
どうしていいのか、分からない。自分に何が出来るのか、私にはまだ見えなかった。
「・・・ちゃん、焦らないで。」
「リザさん・・・?」
それまで黙って話を聞いていた中尉が、席を立って近づいてきた。
そしての前で膝をつくと、無意識に握り締められていたの手をそっと包む。
驚いてきょとんとしているの顔を優しい微笑とともに覗き込んで、続けた。
「あのね、私にも守りたい人がいるの。」
「守りたい人・・・リザさんにも?」
「えぇ。」
それは誰?と聞こうとして、は開きかけた口を閉じた。
何となく、分かったからだ。
「私はその人を守るために、銃を取って戦う道を選んだけれど、それは人それぞれだと思うわ。」
「人・・・それぞれ?」
「そう。私は私の、ちゃんにはちゃんの守り方があると思う。」
力がなくても、戦えなくても、ちゃんなりの守り方がきっとあるはず。
そう言って中尉はにっこりと笑った。
仕事中では決して見られない、やわらかい笑み。
「焦らないでゆっくり見つけていけばいいと思うわ。分からなかったらエドワード君に聞いてみるのもいいと思う。・・・大丈夫、ちゃんならきっとできるわ。」
「リザさ・・・っ!」
中尉の言葉がゆっくりと心に染み渡っていく。
冷え切っていた体に熱が戻るように、暖かくなっていく。
どうしてだろう。はっきりと道を示されたわけではないのに、救われた気がした。
あとからあとから涙が溢れて、止まらない。
「夕方、2人を迎えに行ってあげなさい。ハボック少尉には話しておくから。」
「・・・はい・・・!」
顔を覆って泣き続けるの髪を中尉は優しくなでる。
は何度も頷きながら、その後しばらく泣き続けた。
***
「よぉ大将。迎えに来たぞ。」
夕方。
ハボック少尉に連れられて、は大きな屋敷の中にいた。
出迎えてくれたこの家の主、タッカーさんは、人語を話す合成獣を創った事で国家錬金術師の資格を取得した人物で、巷では「合成獣の権威」と呼ばれている人物らしい。
きっと恰幅のいい威厳のある人物なのかなと思ったが、実際の人は、少し気の弱そうな普通の男性だった。
初めましてと丁寧な挨拶するに、彼もまた初めましてと頭をかきながら少し照れくさそうに笑った。
その優しげに細められた目と雰囲気を見て、は一瞬既視感にとらわれた。
しかしそれは一瞬のことで、はすぐに言われた「エドワード君たちならこちらです。」と言う言葉に意識を攫われてしまった。
瞬時に緊張感が戻ってくる。
ドアの向こうで楽しそうな女の子の声や、アルフォンスの呆れた声、そして言い訳する元気なエドワードの声。
どうしようと今更ながら思っていると、すっとエドワードが部屋から出てきた。
ドキッとした瞬間、向こうもに気づいたらしく、目を見開いて固まる。
両者何も言い出せず見詰め合っていると、兄の様子をいぶかしんだアルフォンスが、ひょいっとドアから顔を出した。
「あれ、?」
その一言で呪縛が解けたように、はようやく苦笑にも似た笑みを浮かべた。
「お疲れ様。2人とも。」
その言葉にアルフォンスは元気に「うん!」と返し、エドワードはそっぽを向きながら「あぁ。」と短く答えた。
いつもに比べればそっけないけれど、今のには十分だった。とても、嬉しかった。
「あー、新しいお客さんだー!」
そんな元気な声に惹かれて視線を落とすと、小さな女の子がこっちを見て目を輝かせていた。
その後ろからのっそりと白い大きな犬が顔を出す。
この子がタッカーさんの娘だろう。そう直感すると、はにっこりと微笑んでその場にしゃがんだ。
「こんばんわ。私はって言うの。あなたのお名前は?」
「ニーナ!それでこの子はアレキサンダーっていうの!」
「よろしく、ニーナちゃん。」
そう言って手を差し出せば、ちょっとだけ照れながら手を差し出してくる。
握手をして2,3度手を上下に揺らせば、楽しそうに笑ってくれた。
「ねぇねぇ、おねえちゃんもまた来てくれるの?」
「え?」
期待に満ちた目に見つめられて、は一瞬答えに詰まった。
ちらりと後ろにいるエドワードを見るが、こちらを向く気配も、何も言う気配はない。声は聞こえているはずなのに。
はそれを無言の許可と取ると、ニーナに向かって微笑んで、頷いた。
「うん。明日からこのお兄ちゃんたちと一緒に来るね。」
「ほんとに!?」
「うん。約束。」
そう言って小指を差し出せば、小さい小指が絡んできた。
そのままゆびきりげんまんをする。
絶対だからね!という可愛い声に何度も後ろを振り向き、笑顔で応えながら、はその家をあとにした。
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あぁぁ・・・リザさん偽者・・・orz
まだ完全には仲直りしてません(苦笑)
次回はついに天国と地獄を書くことになるかも・・・orz